ローマンという名の男 信念の行方のレビュー・感想・評価
全21件中、1~20件目を表示
変わる社会と変わらない信念
有能だが、冴えない見た目と難のある性格を抱え、事務所で裏方として働く人権弁護士・ローマン。この映画は、事務所の共同経営者・ウィリアムが倒れたことで、ローマンの人生に訪れた「変化」を描く骨太なドラマだ。
面白そうだな~、とは思っていたけど、想像以上にハイレベルな面白さだった。
ローマンは約40年間変化のない男である。同じアパートに住み、服装もアップデートされない。
公民権運動の時代の空気感のまま、その時代に感じた信念に身を捧げ、己に忠実に生きてきた。
ローマンの目には、信念と立ち向かうべき壁しか映らない。そんな彼を支えてきたのは、ウィリアムという「揺るぎない土台」であり、ウィリアムを失ったことでローマンは変化の波へと放り込まれる。
流れ出した時の中で、ローマンは新しい出会いを迎える。ウィリアムの後輩だというやり手弁護士のジョージは、ローマンの有能さを見抜き、自分の事務所へと招く。
ジョージのやり方に反発したローマンが活路を求め、訪ねた先で出会う人権活動家のマヤは、ローマンを活動の先達として尊敬するが、集会に招かれたローマンは「公民権時代」のまま停止してしまった信念と世代のギャップを痛感させられる事になる。
時代から取り残されたようなローマンのアパートを囲むように、建設途中のビルが何度もスクリーンに写し出される。ローマンの人権への思い自体は現代でも充分に通用するし、長い間取り組み続けてきた不屈の精神は驚嘆すべきものだ。
だが、集会では若い女性に「騎士道」という女性蔑視スレスレの信念を指摘され、職場では同僚に「拝金主義」という偏見を押し付けるローマンは、実のところ周りが見えていないのである。
とはいえ、当のローマンはそんな俯瞰した視点を持てるわけがなく、器用さを持ち合わせてもいないのだから、彼に絶望するなというのは土台無理な話だ。担当した依頼人の司法取引に失敗し、寄り添うはずだった「弱き者」を守りきれなかったことも災いした。
守秘義務を破り懸賞金を手にしたローマンは、今までの生き方を捨て、何もかも忘れて羽根を伸ばし、極端なくらい現状に適応しようとする。
ビーチで波に興じるローマン。浅瀬から見る水平線は遥か遠く、沖合いに見える船にすら届きそうもない。その昔、駆け出しのジョージにウィリアムがかけた言葉が思い出される。
「どうした、浅瀬でもうギブアップか?」
ローマンはジョージがもがいた浅瀬より、もっと進んできたはずなのに、それでも理想の水平はまだあんなにも遠く、進めば進むほど足は海底を離れて支えを失ってしまう。
イタリア製の靴を履き、新調したスーツに身を包み、事務所の仕事に馴染んでいくローマンとは裏腹に、ジョージは経営の安定を図りつつも無料弁護に力を入れていく方針を打ち出す。人生の大半を信念に費やした男の姿が、ジョージに忘れていた理想を思い出させたから。
ジョージがローマンと違うのは、理想に身も心も捧げ視野を狭めるのではなく、「稼ぐ」と「闘う」を両立させようとしたところだ。
ウィリアムも成せなかったことを、ローマンの力を借りて継承していこうとしたのである。
もう一方の出会いだったマヤも、自分の正義感が行き過ぎているのではないか?この信念に人生を賭けていいのか?という揺らぎを抱えていた。
そんな彼女にとって、ローマンは不器用でありつつも、マヤを肯定してくれる存在。信念と共に生きていく素晴らしさをマヤが感じられるのは、ローマンのような人がいて、その人たちが道を示してくれたから、に他ならない。
堕ちていくローマンと、他ならぬローマンその人に背中を押されて高まっていく二人の対比が抜群に良い。
理想に目が眩み、依頼人を死なせ、あろうことかその情報を元に利益を得たことで、ローマンはギャングに命を狙われる事になる。そうなって初めて、己の罪を感じたローマンは本当の意味で「依頼人」と同じ目線に立つことが出来た。
思想の中にしか存在していなかった「権利を侵害される者たち」と、同じ苦しみを抱えたことが、ローマンを真の意味で「闘う男」にしたと言えるだろう。
ローマン自身はウィリアムと同様、何も形にすることが無いまま闘いの舞台から去る事になった。それでもマヤには信念を貫く闘志が、ジョージには信念を形にする武器が継承されていく。
託されたブルドッグは、マヤたちを守るように凛々しく、集団訴訟の書類を携えたジョージの背中は大勢の遺志を背負うのに相応しい覚悟に満ちている。
緻密な筋立てと、要所に効く演出。そしてデンゼル・ワシントンとコリン・ファレルの演技が高次元で昇華する、見応えのある映画だった。
娯楽性と社会性を兼ね備えたこんな素晴らしい映画が、なぜ劇場未公開なのか理解不能。
公民権運動にあまり馴染みがないから、日本ではウケない、ってことなのか。面白かっただけにちょっと淋しいよね。
新鮮で真っ当。
正義を問うに新鮮で真っ当。 不正を暴くに疲弊する者と不正に甘んじる自分を許し続けるに疲弊する者。 この両者は一人の人間の内に半々で同居するという当たり前を物語で果敢に描き成功。 特に終盤の畳み掛けが良し。 デンちゃんは何演らせても品あり。
ブルドック
予備知識無しで鑑賞。デンゼルワシントンとは思わなかった。上手い役者さん。 信念の男とあって途中までは貫かれていたがあっという間に変心、えっそんな事で容易く? 最後はそれで良かったと思わせるけど、そういう状況ってどうなの?またそれで犯罪者が増えていくのよねー
なんかもの悲しくなる内容だが、勇気や信念も伝わってくる
ただただ、デンゼルワシントンの役作り、気迫に圧倒される。 法廷シーンが好きなので、やりとりを楽しみにしてたけどほぼ無かった(笑) まあ物語的には当然なんだけど、、。 人権弁護士。もちろん理解はできるのだが、報酬も適切な額がもらえず慈善事業でもあるまいし、前へと突き進む信念はどこからくるのか? 先日6000万を寄付した匿名の男性、コロナ禍での不安や辛さの中でそんなにも人を思いやれるのだろうか? たぶん自分は10億手元にあっても同じ行動はできない。 寄付した男性は小学生の時から貯めたお金だそうだが、どうかお金に 不自由のない生活をしている事を願う(余計なお世話だが) 評価からはそれたが、その信念を持った男が裏方から表舞台に出るのだが、口下手でありロビーの動きもイマイチ、そこが人間臭くてまた良い。しかもデンゼルのジョークがクスリとさせられる(笑) 能力や記憶力は抜群であるが、個人的には少し発達障害があるのかもと思った。(出産時に鉗子で摘出等) また能力のある人や頑張っている人(少し抽象的ではあるが、、、)がしっかりと正当な評価がされないのは日本と似た側面があり全ての人にスポットを当てるのは不可能でもこのようなケースがあると非常に悲しく感じる。 もう少し向かう方向が違えばと考えてしまう。 まあラストにつれて少しずつ変化するコリンファレルが次なる希望、勇気を与えてくれる内容ではあった。
人気男優D・ワシントンが第90回アカデミー賞で主演男優賞にノミネー...
人気男優D・ワシントンが第90回アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされた社会派ドラマ。誠実で有能だがぱっとしない弁護士ローマンは、運命を大きく変えられていく。
タイトルなし
デンゼル・ワシントンが信念を貫き通す姿、自らの信念を裏切り、経済的には豊かになった生き生きした姿、自分の過ちを指摘され、再び自分を取り戻していく姿の3シーンを演出と共に上手く演じ分けている。弁護士事務所代表のコリン・ファレルが切れ者弁護士を演じ、格好いい。地味だが良作。
デンゼル・ワシントン迫真の演技ですが・・・
記憶力抜群でプライドも高いが、ピントがずれていて偏狭で評価されない主人公。大手弁護士事務所に移籍とNGO法人のサポートを機会に、仕事と人間関係に変化が訪れて・・・というストーリー。 デンゼル・ワシントン主演の法廷物ということもあり、鑑賞しようとしたのですが・・・ 一本気で不器用(いわゆる適応障害?)。そして金銭的な利益より正義を信奉する主人公。その彼がその不器用さから非難される様を見るのは正直辛いものがありました。 ただ、デンゼル・ワシントンの演技は素晴らしく、今までにないタイプの人物を見事に演じていました。
いろいろ込みで中身のある映画
熱のある演技、やっぱりそこに目が行ってしまう作品。何十年も法に埋もれて生きた人間、をいかに表現するか、みなり風体言動までディティールにこだわって演じたのが伝わってくる。デンゼルのその旁らコリンファレルも締まりのある演技をしている。 そこはよしとする。 信念を持ち続けた男が一度はそれを捨てる、そこを描くわけで実のところ物悲しい内容ではある。その転換が数日の出来事として描かれるので、展開が早急な印象。人生の半分以上で揺るぎなかった信念が一連の出来事で果たして崩れるのか、説得力に欠けるような。。 とか言いつつ、非常に共感したりもした。ちょっとしたずれのせいで、あとはどんどん逸れていってしまう、そんなことって、ある。しかし、結局は回帰してしまう(しようとする)。 とか、いろいろ込みで中身のある映画。
久しぶりに観たかっこいい映画
ビデオの質がわるく大切な箇所、主人公ローマンが公民権運動のアクティビストたちの前で講演するところ)が見られなかった。もう一度見る予定。 この映画はローマンといううだつが上がらない(公民権運動の弁護士だが、弁護に立つ弁護士でなく、パラリーガルっぽい役割の弁護士)が、おそろしく頭の切れる弁護士とそれに関わる人々の移り変わる心理(主観だがはっきり言って人間の心を持っていく)がよくわかる映画。だれでも、人間はまちがったことをしてしまうときがある、それをどう解決するかも大切になってくるし、人は外見だけでなく、中身であるが、それを見極めていくまでのローマンのボス、ジョージのこころの動きが、言葉より、かれの、表情や態度からからよく読み取れる。 言葉のほうでも、ジョージはローマンと友達になっていくように感じた。 また、ローマン(デンゼルワシントン)とジョージ(コリンファレル)の対照的な二人が交わす会話が印象的。 個人的な問題点は法定用語、弁護士専門用語などだ。どっからこれらの言葉が出てきたのか、法廷映画は大好きだが、この映画の法廷用語が理解できなかったから、もう一度見るべきだ。 ローマンは時代錯誤している役割だし、それにアスパルガーや自閉症っぽい役割もしているので、彼の感覚で彼の言葉を理解するのが難しかった。 それに比べると、ジョージはストレートに言葉を使うし、明らかに、よく見かけるアメリカの優秀な金持ち弁護士役だから、ローマンに比べてわかりやすかった。
結局は金欠病が・・・
ESC.とは元は騎士志願者を指していたが、弁護士の多くは敬称として用いるそうだ。このエスクが終盤にはエスケープの意味に変わることなど予想すらできなかった。一見して、ボサボサ頭で風采が上がらず、いつもヘッドホンで音楽を聴いているという、とても弁護士とは思えない男が主人公だ。 ローマン・J・イズラエルはかつての黒人公民権運動の影響を受け、弁護料が安くても主に刑事事件の人権派弁護士として闘ってきた。とはいえ、法律事務所を細々と経営するウィリアムの完全なる裏方であり、法廷に立つこともなく人と喋るのも苦手な弁護士。しかし、記憶力だけは抜群によく、ウィリアムが倒れてからは、大手の事務所オーナー、ジョージ(コリン・ファレル)にスカウトされる。しかも週給500ドルという、弁護士としては低賃金で・・・ 早速受け持った案件はデレルという黒人男性がアルメニア人店員を銃殺したという事件。主犯のギャングの一員カーター・ジョンソンは捕まっておらず、彼がそのまま共犯として終身刑は免れない状況だった。しかし、デレルはカーターの居場所をローマンだけに伝え、減刑してもらうよう懇願する。証人保護プログラム付きで。 ボランティアで抗議運動を教えているマヤと出会ったローマン。自分の信念である弱者救済と意見が合致し、気を許すようになる。ローマンには7年間温めている、司法取引に関する集団訴訟を計画していたのだった。もちろん新しい職場では拝金主義が基本であるため、金にならない訴訟は扱っていないという設定だ。 長年、金にならない人権派弁護士を務めていただけにいつも金欠病のローマン。ある時、アルメニア人殺害の懸賞金が10万ドルだということを知り、弁護士の守秘義務を放棄してこっそり親族に主犯のカーターの居場所を教えるのだ。魔が差してしまったローマン。それでも大金を得て週末に豪遊。このまま普通に暮らしていけると思ったら、秘密を教えてくれたデレルが刺殺されるという事件が起きた。そして新たに指名を受けて拘置所に向かうと、その被疑者がカーター本人だっというわけだ・・・愕然。 もうここからは真面目に生きてきたローマンの人生が破滅に向かうだけ。もう逃げることしか頭になく、すれ違う車がすべて自分を殺しにきたギャングだと被害妄想に陥ってしまう。自虐的、堕落的、ネガティブな感情を一気に背負い、ついには自分で自分を告発する方向に考えがまとまり、原告=被告=弁護人という驚くべき行動に出るのだった・・・ ガーン!とショックを受ける雰囲気を音をこもらす手法で表現し、これがiPodを手放せない彼の性質に見事にフィットする。「車を盗んでも罪に問われない場合がある。それは危機を回避するとき」などと雄弁さも、単に金欲しさに罪を犯してしまっては言い訳が立たない。そんな男の結末も〇〇〇だったが、コリン・ファレルの取った行動がカッコよくて痺れた!
ちょっと切ないです
本作のDWは正義感のある人権弁護士のローマン役。いつもと違って弱くて切なくなります。慈善活動なんてもうやってられない!と海辺に行ってヤシの木の下でドーナツを食べると宣言した後、メトロに乗ってサンタモニカでドーナツ食べる可愛いDWが見れます。
過ちから正し、培われていく信念
『フェンス』に続き、デンゼル・ワシントンがオスカーにノミネートされながらも、またしても日本未公開となった本作。
本国アメリカでも決して作品評価は高いものではなく、興行的にも不発。デンゼルの演技は絶賛されたものの、『The Disaster Artist』のジェームズ・フランコのスキャンダル疑惑が無ければ彼がノミネートされて、デンゼルはノミネートされてなかったくらいのギリギリライン。
デンゼルの数ある主演作の中でもあっという間に忘れられるというか、ほとんど知られていないくらい地味っちゃあ地味だが、個人的にはなかなか見応えあったと思う。
人権派弁護士のローマン・J・イズラエル。
弁護士としての才能はあるものの、長年法廷には立たず、恩師である弁護士のパートナーとして、裏方に徹してきた。
ある日、パートナーが病に倒れ、赤字続きだった事務所の閉鎖が決定。
彼の才能を高く評価したエリート弁護士に引き抜かれ、その下で働く事になるが…。
何と言っても、デンゼルの凝った役作りや演技が見もの。
スターオーラを消し、体重を増やし、冴えない風貌。唯一目立つのは、アフロヘアだけ。
ローマンの人物性格も、口下手、人付き合いが苦手、時々まどろっこしい言い方もする。余計な事を言って相手に毛嫌いされる事もしばしば。
が、金や自分の名声なんかより、依頼人の身になって親身に真剣に向き合ってくれる。
何より、どんな些細な間違いや不正に黙っていられない。
長年、司法制度変革案を書き溜めている。
メチャ頼り無さげではあるが、ついこの弁護士に相談したくなる。
数々の名作での名演、現在公開中の『イコライザー2』などで披露しているキレッキレのアクションも素晴らしいが、デンゼルの人柄滲み出る役柄に感じた。
そんなローマンに運命の分かれ道が…。
表舞台に立って改めて知った、司法の現実。
ビジネス優先。間違いや不正など誰も気にも留めず、指摘してもその声は一切届かない。
生真面目な自分だけが馬鹿を見る。いつだって貧乏くじ。
法の世界に全てを捧げてきて、家庭は持たず。狭いアパートに帰れば、寂しい独り暮らし。隣は夜なのに条令違反の工事中。
何故、自分だけついてない…?
周りの弁護士は皆、甘い汁を吸っている。
恩師と二人三脚でやってきたこれまでの険しい道、何より確固たる信念は理想に過ぎなかったのか…?
彼の中で何かが崩れた…。
弁護士でありながら守秘義務に違反してある密告をし、懸賞金を手に入れる。
初めて甘い汁を吸う。
これは、恵みなのだ。
誰かだってやった事ある筈。
自分もその大勢の中の一人になっただけ。ちょっとおこぼれを頂戴しただけ。
…が、元々生真面目な善人がそれに耐えられる訳が無い。
ヤバい筋に命を狙われる事になるが、それ以上に、自責の念に押し潰される…。
人は変化する生き物だ。
環境や境遇に応じ、変化を受け入れるのは人として自然な事だ。
が、自身の信念を偽ってまで変化したら、自分が自分じゃなくなる。
ローマンはローマンだから良かった。
周りの色に染まった彼に、相談したいという気持ちは薄れてしまった。
変化と言えば、ローマンを引き抜いたエリート弁護士。
当初はビジネス優先。
が、ローマンの信念に触れ、考えが変わり始める。
ビジネスも大事だが、ローマンのように依頼人の立場に立ち、無料相談を始める。
時にローマンと意見が対し、やがて彼を信じ、彼を案じる。
コリン・ファレルが好演。
変わりはしなかったが、人権運動団体の女性は、次の世代のローマンだ。
愚かに変わってしまったのは、他でもない、自分だけなのだ。
人は弱く、脆い。
幾度も迷い、悩み、躓き、挫け…。
ならば、信念は何処に…?
…いや、確固な信念など元々無いのだ。
過ちに気付き、後悔し、正す。
そうやって信念というものは培われていく。
そんな人間臭い信念こそ、信じ、引き継がれていく。
ワシントンのすばらしい演技
暗い照明の事務所と天井までの判例集。それが法律界の権威とプライドである。しかし、それもAIの時代によって崩壊しようとしている。AIの前に安全な場所などないのだ。過去の判例集や訴訟事件の検索とマッチングの仕事はなくなるだろう。残るのは交渉できるプレゼンターになる。 つまり古いジャズは残る(笑) 物語は、・・ 甘いドーナッツを海辺のベンチでたべるのが象徴的だ。大きなシーンチェンジがあって、後半はいつもの正義へと結ぶ、一般受けしない古い時代の映画だ。 勇気を与えられること。 ぼくが映画を観る理由のひとつが、それだ。 正しさと勇気は性質がちがっているが、どちらかといえば勇気を尊重している。
社会的な自殺、復讐としての他殺。
本国でも作品評価がよろしくなく、結局日本でもDVDスルーになってしまった一作だけれども、個人的にはなかなか楽しめるいい映画だった。こういう映画と出会うといつも気づかされるのだが私は多分「過ちを犯す人間のこころの動き」をドラマに見るのが好きなのだと思う。だから私はヒーロー映画が苦手だったりする。
原題の"Roman J. Israel, Esq."にある"Esq."の意味が分からず、なんなら読み方すら分からないな、なんて思って調べてみた。主に法曹界で使われている敬称らしく、この映画の主人公ローマンのように自ら"Esq."をつけて名乗るのは珍しいことのよう。でもこの映画の場合、ローマンがそうして"Esq."を付けて名乗っているところに、彼自身の人としての尊厳の高さや、法律家であることに対する責任感のようなものが表現されているように思え、"Esq."の敬称に恥じぬ人間であらんとする彼の人となりを知る一つの手がかりとして効果的だと感じた。そう、彼は見た目こそ時代遅れの洗練されない衣服をまとってはいるものの、人としての気位や品格の高い善良な人物。そんな善良な男の正義感やモラリティがぐらりと傾き、彼を法や倫理に反した行動へと手招いていく様子と、その時に生じるこころの揺らぎがドラマティックに描かれたなかなか良質な社会派ドラマだったと思う。
この映画の中には3人のローマン・J・イズラエル,Esq.がいた。優秀だけれどもひどく内向的で老いも隠しきれない一人目のローマン。そしてある悪事に手を染めたことによって皮肉にもみるみる洗練され自信を獲得していくローマン。そしてその悪事が表沙汰となり始めたところから一度は見失いかけた自らの信念と直面していくもっとも裸に近いローマン・J・イズラエル,Esq.。一人の人間でありながら、置かれた状況によってその様子を見事に演じ分けるデンゼル・ワシントンのベテランの奥義が素晴らしくて、名優とはこういうものだというのを見せつけられるかのよう。そして対抗するコリン・ファレルがまた冷静かつパワフルな演技で向き合っていて実に充実した演技対決。物語の「善良な人間が悪事の誘惑に負け人生が大きく狂わされていく・・・」というプロット自体にはさほど目新しさはないものの、そこに二人の熱量の高い演技と、「ナイトクローラー」の晴れ晴れしい実績も記憶に新しいダン・ギルロイ監督のシャープな演出が作品を一気にグレードアップさせていたと思う。
ただどうしても納得がいかないのが結末部分で、悪事が露見し逃げ場を失ったローマンがその後にする行動には、ローマンが元来善人であることを確かめるような強調しか存在せず、さらに彼を銃口が狙うことでローマンに同情を寄せさせ、更には銃声が響くことで彼の禊がさも済まされてしまったかのような印象操作を感じてしまい、ローマンの償いや自らの信念に背いたことに対する自責と言う部分があまりにも簡潔かつ表面的に済まされてしまったような気がしてならなかった。ローマンほどの人格者であるならば、禊も済まされぬうちに銃で撃たれるのは不本意であるはずだ。何しろ彼は社会的に自殺しようとした人間だ。己の人権を奪ってほしいと法に呼び掛けた男だ。それを復讐の他殺で決着をつけるのはあまりに安易だ。私はアメリカの法制度に疎いので、ローマンがあの銃弾に伏したのか辛くも生還し裁判が行われようとしているのかはちょっと理解できなかったが、いずれにしても、悪事に手を染めた後のローマンに対してあまりに甘い結末ではなかったか?と思ってしまった。
真面目
機内にて鑑賞しました。真面目な性格で努力家で正義感があるローマンとコリン・ファレル演じるピアスを見ていると、日本でもアメリカでも真面目な人が生きづらくなっているのは法曹界も同じなんだなあと思いました。信念を貫く事の尊さが改めて評価される時代がまた来て欲しいです。
Roman J. Israel, Esq.
一見パッとしない変わった弁護士だが"信念"を貫いて生きてきた男。 道を逸れ過ちを犯せども、彼の"信念"は周囲の人を変え、魂は受け継がれていく。 デンゼル・ワシントンの演技の素晴らしさ、幅の広さを改めて実感。 主人公の人物設定も彼によるところが多いらしく、紫のスーツやヘッドフォンも彼が選んだものだとか。 約20㎏の増量に付け歯…その役作りへのこだわりは海のように深く、脱帽せざるを得ない。
全21件中、1~20件目を表示