「羽ばたいてる、自分?」レディ・バード つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
羽ばたいてる、自分?
正直に言うと、「今年最高の一本!」みたいな、はしゃいだ気持ちにはなれなかった。初めて観たグレタ・ガーウィグ監督作品が「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」だったのは、今になって思うと良かったのかもしれない。
この作品が私にとっての「初グレタ」だったとしたら、劇場に観に行ったかは怪しい。
いきなり否定的なことを書いてしまったが、面白くなかったわけではない。
何と言っても、今まであまり目にすることのなかった「女子の痛々しさ」が思いっきりさらけ出されているところが良い。
盗んだバイクで走り出したりはしなくても、女の子だって「若気の至り」でいろんな「痛い」ことをする。
ママとケンカして車から飛び降りる…、とまではいかなくても、親への反抗は「ママなんて嫌い!プンプン!」みたいな可愛いもんじゃない。外面をどんなに繕っていても、内なる女子は獰猛で、下品で、自己中で、それでいて夢見がちな、厄介な生き物だ。
作品中、この痛くて厄介な「レディ・バード」ことクリスティンを、シアーシャ・ローナンは見事に等身大に(それでいて魅力的に)演じている。
自分の名前がダサイと思って、「レディ・バード」と呼べ、と言い出す。
聖体拝領のビスケット(?)を菓子のように貪りながらの女子トークも良いし、中絶反対のスピーチに辛辣なツッコミを入れるシーンも良い。
どれもこれも、おばちゃんになったら「みっともない!やめなさい!」と言いたくなる恥ずかしさだ。
特に「愛」に対する誇大妄想がバカみたいで可愛い。
自分を大切にしてくれていると思っていた彼氏が、実際はゲイだと知ったり、初めてのセックスに過剰な夢を見て、現実という名の裏切りにショックを受けたり、本当に愚かで愛らしい。
理想の自分、理想の世界の住人になりたくて、でもなれなくて、ほろ苦い経験が自分を成長させていく。
「恥ずかしい、もうヤメテ!」という気持ちと、「ヘコむな、頑張れ!」という気持ちが同時に押し寄せてくる。不思議。
大人になりたい、何でも自分で決めたい。
そう思って、羽ばたいて、一人になって初めてクリスティンは親や過去の自分を「間違ってるけど、間違ってない」と、ありのままに受け入れる。
いずれ巣立っていく自分を育ててくれたママは、どんな気持ちで世界を見ていたのか。
てっきり同じ景色を見て、こんなしょっぱい世界を受け入れてるなんてバカじゃないの?と思ってた。でも、きっとそれは違ったんだ。
ママにはママの、理想の姿があって、現実があって、そのなかで精一杯生きて、精一杯愛してくれてた。
そんな中で見る世界は、しょっぱくなんかなかったんじゃないだろうか。
私自身はあまり「レディ・バード化」せずに成長した、と思う。だから、100%共感出来るほど夢中にはなれなかった。
それでも大人になった今、「レディ・バード」を観れば、黒歴史だらけの青春時代を思い出し、恥ずかしくて懐かしい気持ちが呼び起こされる。
そしてその黒歴史が、間違いなく「私」を形作ったのだ。きっと、痛々しい頃の「私」は今の「私」に目をキラキラさせながら訊いてくる事だろう。
「羽ばたいてる、私?」
おう、羽ばたいてるぜ!とカッコよく返事してあげなきゃ、と思うと、なんだか明日も頑張れる気がする。