「還るところ」レディ・バード masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
還るところ
シスターがシャーロットのレポートを評した言葉が印象深い。
「注意を払っているということは、愛していることと同じ」
シャーロットの母親も、大切に思うあまり、注意を払いすぎているのだな、とその時合点がいった。
愛情が過ぎると、こうあるべき、こうあって欲しいという願いが先に立ってしまいがちだ。
だから、プロムの衣装を試着しながら、シャーロットは懸命にメッセージを送る。「(ママは私に常にベストであって欲しいって言うけど)もし今がそうだったら?」
そんないたいけさを垣間見せつつも、親友を袖にしてみたり、成績をごまかすための結構大胆な行動もしてみたり…。
でもそれが彼女にできるベストなのだ。
ベストを尽くそうと、どんどん色々なものから離れたり、脱ぎ捨てたりしたはずが、結局シャーロットの心に還ってきたのは、無二の親友や、母の愛情や、美しいサクラメントの情景だった。
その自覚ができた時、レディ・バードなどという仮面はもはや必要なくなっていた。大量の嘔吐と一緒に、重くて無駄な心の鎧を吐き捨てたのだ。
人間は還るところがあると知った時に強くなる。優しくなる。豊かになる。
館内はたった4人だったのだけれど、もっとたくさんの人に観てもらいたい映画だと、心から感じた。
追記
イラク戦争時代が背景になっていて、実際のニュース映像が頻繁に挿入される。子供を持てないと諦めた母がおそらく養子として貰い受けたであろうヒスパニック系(?)の兄がいる。シャーロットが18歳になって、記念のタバコとポルノ雑誌を買い求める雑貨店の店主も中東系の男性だ。2002年という時代を背景にした意図などは、自分には勉強不足でわからなかったけれど、それがこの作品を少女の成長物語というスケールに収めない、時代の空気そのものを描いたようにも感じる。しばらくこの映画のことを考えてしまいそうだ。