「似た者母娘の同族嫌悪」レディ・バード 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
似た者母娘の同族嫌悪
誰もが経験したことがある、思春期のもやもやするようなざわざわするような気持ち。今までにも思春期のもやもやを描いた青春映画ってたくさんある。っていうか青春映画ってよっぽど頭の悪いラブコメ以外は、思春期のもどかしさや心の漣を描いているもののはず。だけど知性派のグレタ・ガーウィグが同じことをするわけがないとは思っていた。まさか、爽やかで瑞々しくてキラキラしただけの青春な筈がない。そして期待通り、グレタ・ガーウィグのユーモアとシニカルさとインテリジェンスがそこかしこに散りばめられて、痛いんだけどウィットに富んだ青春映画が誕生したという感じ。ハイスクールの演劇に参加したり、プロムにドキドキしたり、親に内緒で進路を決めていたり・・・なんて数多の青春映画で見てきたような普遍的な思春期のストーリーラインでありながら、角度を変えてユニークな視点から切り取ると、こんなにオリジナリティを感じる作品になるのだなと思った。爽やかじゃないし瑞々しくもない。むしろ痛いことだらけでダサくって、ズタボロなハイスクール。だけど、痛がって憐れんだりせず、痛みを跳ね飛ばして突き進む個性を持ったレディ・バードがなんとも愛おしく映画の中心に立つ。格好いい。グレタ・ガーウィグの分身として特有のユーモアと知性を纏ったヒロイン”レディ・バード”が実に魅力的で、さらにそれを演じるシアーシャ・ローナンの予想外のコメディ・センスも相まってとても痛快。グレタ・ガーウィグとシアーシャ・ローナンとレディ・バードの3人の出会いはまさしく「痛快」そのものだった!
セリフ回しなんて、まさしくグレタ・ガーウィグのセンスが冴えわたっていて、このリズムとワードのチョイスを見せつけられると、あぁ英語圏で生まれてこの映画を観たかったなと思う。日本語に置き換えちゃうと、セリフの弾みがどうしたって失われてしまうものだから。
そして母親を演じたローリー・メトカーフがまたいい味を出して、「この親にしてこの子あり」というか。レディ・バードがいかにしてレディ・バードになったかが窺い知れるような独特の存在感。似た者同士だからこそ、お互いにどこか嫌悪し合ってしまって(まして同性の親だし)、お互いに心に棘を持つ者だから、近づきすぎるとつい傷つけあってしまうような関係の奥に、母と娘の愛をじんわりと見せるクライマックス。グレタ・ガーウィグがまさかわざとらしく見せつけるようなジメジメした演出をするはずがない。空港の前を車で一周している瞬間に、そして新しい土地で名前を尋ねられた瞬間に、それぞれがお互いへの愛情に気づかされるさりげなさ。いくら嫌悪しあったところで、似た者同士が理解し合えないはずはないのだよ。
最後にレディ・バードは、自分でつけたその名前を捨てて、親がつけた名前をようやく好きだと言った。そのとき、彼女は鳥の翼を落とし、これから地に足をつけて歩き出すのだな、と思った。