劇場公開日 2018年2月10日

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ロープ 戦場の生命線 : 映画評論・批評

2018年1月30日更新

2018年2月10日より新宿武蔵野館、渋谷シネパレスほかにてロードショー

民族紛争の不条理に向き合う支援活動家らの一日をパンク精神で活写

「お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いている」。ベニチオ・デル・トロティム・ロビンスオルガ・キュリレンコら5人の俳優が見下ろす印象的なキービジュアルに、ニーチェ著「善悪の彼岸」の名言が思い浮かぶ。彼らが扮する支援活動家らの視線の先には、村の井戸に投げ込まれた死体。昨日まで軒を並べて仲良く暮らしていたのに、ある日を境に民族が違うから宗教が違うからと憎み合い、殺し合う。5人が目にするのは、民族紛争の不条理そのものだ。

1995年、ボスニア紛争停戦直後のバルカン半島の山岳地帯。「国境なき水と衛生管理団」は死体を引き上げようとするが、古くてボロボロのロープは重みで切れてしまう。彼らは新しいロープを求め、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を車で走り回ることになる。

原作は、「国境なき医師団」に所属する医師でもあるスペイン人作家パウラ・ファリスの小説「Dejarse llover」(雨を降らせて)。スペイン版アカデミー賞と称されるゴヤ賞の常連、フェルナンド・レオン・デ・アラノアが監督・脚本を務めた。ボスニア紛争を題材にした映画の一つにダニス・タノヴィッチ監督の「ノー・マンズ・ランド」があるが、本作の主眼は、最前線の極限の緊張感でも、敵味方に分かれて殺傷し合う理不尽さでもない。自らの意志で危険が残る地域に赴き、助けが必要な人々のために、やるべきことを実行する活動家たち。勇壮な戦いや人命救助に比べると地味だが、彼らのような存在によって世界は昨日より少し居心地のいい場所になることを教えてくれる。

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サウンドトラックも、「スウィート・ドリームス」のマリリン・マンソンによるカバー、「花はどこへ行った」のマレーネ・ディートリヒによるカバーなど、こだわりの選曲。特にルー・リードの「ゼア・イズ・ノー・タイム」に関連して、監督は「(本作は)音楽で例えるならパンクロック。パンクは気骨があって、時間と闘っている」「(活動家にも)悲愴感に浸る時間も、同情して泣く時間もない。あるのは行動する時間だけなのだ」と語っている。さらに言えば、原題の「A Perfect Day」も、恋人とのささやかな日常を“完璧な一日”と歌うルー・リードの同題曲に由来するのだろう(この曲自体は使われていないが)。

パンクロックの精神で過酷な状況に対処し、難局や挫折もユーモアで笑い飛ばして乗り越える。そのおかげで彼らは、不条理という怪物と戦いながらも、不条理に飲み込まれずにいられるのだ。

高森郁哉

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