「やっぱり木村拓哉はかっこいいと思った」マスカレード・ホテル 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
やっぱり木村拓哉はかっこいいと思った
刑事がホテルマンに扮して潜入捜査をする。
この設定には心躍るものがあった。
キャスティングも当代きって人気者で、映画館でトレーラーを見たときから、見たい度が高かった。
散髪をしてオールバック風にしてビシッと制服を着たキムタクが超かっこよかった。
私事ながらかつてホテルマンをしていた。こんないいホテルではなかったし、いずれもバンケットマンだったが、幾つかのホテルを巡った。あのころ、制服と整髪でビシッとした自分のなりが誇らしかった。それを木村拓哉のホテルマンが思い出させた。
外資系のあるホテルでは男子はもちろん女子も額に髪がかかってはダメだった。長らく習慣にしていたせいで、今もオールバック風の髪型がいちばんかっこいいと感じることがある。ただし、きょうび男子も女子も、額を髪で覆う。だから余計にキムタクのグルーミングスタンダードが新鮮に見えた。素直にかっこよかった。
映像はかなり凝っている。
寄せたり引いたり回ったりダイナミックなパンを多用し、登場人物も複雑に動く。目まぐるしいと言っていい。原田眞人のようでもある。あるいは原田眞人が鈴木雅之に倣ったのかもしれない。回想や概説映像へもシームレスに繋がる。音楽も荘厳に鳴って映画的だった。
エントランスホールを行き交う人々、バックヤードの喧噪、パントリーの雑然とした感じ、ホテルの内幕はリアルで、ロケと監修の確かさがあった。
話も凝っていた。
予備知識はなく、刑事の話だと思って見始めた映画だが、前半は、ホテルの話である。
客はそれぞれ問題あるが、誠意をもって対応することによって、結果的に溶解し、ホテル側の勝利になる──というエピソードが幾つか語られる。今にも西内まりやが出てきそうな展開だった。
しかし、新田(木村拓哉)が山岸(長澤まさみ)との雑談から事件の大きなヒントを得ることで、ホテルコンシェルジュ風ドラマが徐々に刑事ドラマへ変転してくる。
伏線を経て、犯人へ辿り着くまで、映画内の騙しの構造が、われわれ観衆に対する騙しの構造へスムーズに繋がり、併せて──お客が何者のフリをしていても、それを探るな=仮面舞踏会──タイトルへも繋がる。
因みに文鎮の位置を直すカットが再三なので伏線かと思っていたがはっきりとは回収されなかった。
役者でもっとも印象的だったのは、つねに背景に映る梶原善だった。困ったような表情がじつに語る。
前述のごとく、木村拓哉は46歳にしてホテルマンがきまっていた。
個人的にはいい俳優だと思うが、常に主役、常にヒーローであるがゆえ、充てられるキャラクターが一定で、むしろ役者としては損をしているのかもしれない。
また、汚れ役でも松たか子はきれいだった。
寡作だがやはり巧い監督だと思った。
余談だが、エンドロールの開始地点が早すぎるのではないだろうか。