「作り手よりも、俺達に愛はあるのか?」パシフィック・リム アップライジング ウータンさんの映画レビュー(感想・評価)
作り手よりも、俺達に愛はあるのか?
高層ビルを眺めては「あの怪獣はこれ位の大きさ」、工事現場の重機を見ては「あのロボットはきっとこんな質感」…。そんな事ばかり考えて育ってきた自分にとって前作「パシフィック・リム」は正に夢の結晶であった。「自分はきっとこの映画と出会うためにオタクを続けて来たんだ!」とさえ思った。
ギレルモ・デル・トロ監督は続編の製作と、さらにはゴジラとの共演構想を語ってくれ、期待は大いに高まった。
それが突然の製作中止、制作会社の買収、監督・プロデューサーの降板…。折しも自分が愛してやまない作品シリーズの不調等と重なり、激しいショックを受けて、物事全てに対する期待を辞めてしまった。
鬱屈した思いを抱えて過ごす事数年、不安と期待に心が揺れる中、やっとこの日を迎える事となった。
気付けば5年の歳月が流れていた。
無二の理解者と信じたデル・トロ監督が去り、新たなボスとなったデナイト監督と俺はドリフトできるのか!?
恐る恐る観た映画は…。
楽しかった!
確かに、前作のファンとしては悲しい筋書きではある。
変わった部分もたくさんある。
でも、イェーガーはイェーガーとして、怪獣は怪獣として在った。単に倒す倒されるだけでなく、それらと人間の関わりによって描かれる無二の世界観は、変わらずにあった。
紛れもない「パシフィック・リム」がそこにあった!
ジャパンプレミアでの感想を見てハラハラしていたが、「死ぬ時はイェーガーの中だ!」と自分を鼓舞し、やっとの思いで劇場に足を運んだ。しかし実際に観た感想は予想最低ラインのずっと上を行き、十分に合格ラインに達していると思う。
せめて自分には合う作品であってくれ…!という願いはそれなりに叶えられた感じはある。
下手に期待するとまた馬鹿を見るかも…と散々悩んで買ったバンダイのフィギュアを、怒り狂ってゴミ箱に叩き込む羽目になるんじゃないかと心配していたが、杞憂だった。
さて、内容については早速だが否定的な意見が多いのもやむなしと思う。特に前作の登場人物の扱い、やや強引で説明不足な筋書き、イェーガーの変化、適当な日本の描写辺りが大きな問題点だろうか。
登場人物の扱いはどんなシリーズでも共通の問題だろうし、どうにかならないものか。どこかで見た「最後のジェダイを観た感じ」という評価がちょっと笑える。
大波乱後の一作目だし、無理に話を動かすよりはまずファンを安心させて支持を得た方が、映画の価値向上になったのではないかと思う。元から話の善し悪しよりも、一部の人の思い入れに強烈に刺さるタイプの作品な訳で、例え観客の予想を裏切る話が作れなくてもその分期待に応えれば作品価値は保てると思うのだが…。
しかしこんな形で残念ではあるが、前作の登場人物がとても愛されていたと知る事が出来て、ちょっと嬉しい。
ただ彼のファンには申し訳無いが、怪獣側に立つ人間を作ったおかげで、怪獣に感情移入しやすくなった感があるのは自分だけだろうか?
気付けば一緒に拳を握って怪獣を応援している自分もいて、二倍楽しかった。
ちょっと辛い流れにはなったが、彼等の友情はむしろこれから試されると考えれば、この方向性も無くはないかも…と思う。互いに影響を与えた結果か二人の立ち位置が入れ替わっているのもちょっと面白かった。
新キャラクターについては概ね満足。ペントコスト司令官の息子ジェイクはポジティプでユーモアもあって、中々楽しいヤツだった。ヒロインのアマーラも、心に傷を持ちながらそれを乗り越えてやろうというタフさがあって魅力的だ。
また、二人のやり取りの中にパシフィック・リムの世界観が凝縮されていて良かった。アマーラの境遇にマコを重ねるような描写がなされ、二人はいつしかペントコスト司令官とマコのような関係となっている。「先生」呼びもあるしね!
これが見られただけでも、司令官の息子を設定して主人公に据えるという選択には、それなりの価値があったと思う。
製作中止騒動のせい(自分は映画の内容云々より、これに対する憎しみが何よりデカい!!)で時期がずれたおかげでローリー役のチャーリー・ハナムが出演出来ず、内容も大幅に変更せざるを得なくなった事情を鑑みれば、製作陣は比較的上手く立ち回ったと言えるのではないだろうか。
物語について言えば説明不足感はやっぱりあって、マコはどうやってその情報を掴んだのだろう?とか、その情報を元に展開する話も弱い印象を受けて、そこは残念。
しかし、話がサクサク進むおかげで中弛みは一切感じなかった。全編見所に溢れていて、エンターテイメントに徹する姿勢がむしろ清々しい。
合体怪獣の倒し方も良い。核兵器に頼るよりずっと工夫があってしかも豪快だ。あの機体ダメージでそれやったら、自分達が先に焼け死ぬんじゃ…という気もするけど。
批判の多い東京の描写については、看板等の表記では正確な日本語と中国語表記が混在している印象。
東京か、と言われれば確かにそれと分かる物は無いがこんな物では?むしろ日本人で例えばヨーロッパの各国、しかも15年先の街並みを正確に描き分けられる人間なんてどれ程居るだろう?
ちゃんと描写して欲しいのも日本人なら当然だが、それより看板の内容とかを楽しんでみてはどうか。パンフの写真で「いつでも生ビールが200円」という看板を見つけたが、是非とも行ってみたい。
東京と富士山がやたら近いのは確かにツッコミ所だが、どっちも盛り込もうと欲張った結果だろうか。
・イェーガーについて
確かに前作の様なユニークな機体は不在。正直もうちょっとバリエーションが欲しかったと思う。だが各機に印象的なアクションや演出があり、事前情報からのイメージよりは楽しめた。
主役機ジプシー・アベンジャーは先代の面影を残しつつ先進的にブラッシュアップされていて、挙動一つ一つがヒロイックで頼もしい。
俊足のセイバー・アテナは前作のイェーガーのイメージから最も変わった機体かもしれない。高い機動性を活かして三角飛びや宙返りを披露しながらの剣戟が美しい。
ブレーサー・フェニックスは胸部のボルテックス・キャノンのギミックが面白い。車程もある薬莢をドカドカ落としながら撃ちまくるので、パッと見の印象よりずっとカタルシスがある。この辺りのメカ描写に前作の遺伝子を感じるのだが、どうだろう。
ガーディアン・ブラーボはキャラ立ちしている感じが楽しい。アークウィップを振りかざして戦う姿は魅力的だが、ウンコ座りファッ○ユーのシーンはある意味衝撃…。あんまり舐めプしてると後で酷いぜ…と思っていたが、やられ方さえ豪快でこれはこれで中々…。
謎の敵イェーガー、オブシディアン・フューリーも非常に格好良い。有機的なラインを持つ黒い敵ロボットという出で立ち等はパトレイバー辺りが原点だろうか。あれにも怪獣が度々登場していたし。
そして忘れてはならないのが、アマーラのお手製ミニイェーガーのスクラッパーだ。実に可愛い!小さなボディでドタバタ走り回り、丸まって転がる姿は見ていてとても癒された。
他にも数種のイェーガーが登場しているし、予告やポスターから察せられるように、装備を移植してパワーアップしたり、修理したりと見所は多い。
本作のイェーガーは重々しさに欠けると言われているが、そうでもない。動き出しや歩く時はきちんと重量感や巨大感がある。走り出せば機動性が増したと分かる感じである。前作のように機体の一部のメカをクローズアップして見せるような描写はあまり無いので、重厚さに欠ける印象を受けるのかもしれないが、イメージだけが先行している感がある。少なくとも自分はトランスフォーマーには見えなかった。適当な事は言わないでもらいたい。
前作時点で既に旧式のジプシー・デンジャーが空中殺法を繰り出していた事を考えれば、10年経てばこんなものではないだろうか(パシリムにそんなもん求めてねぇ!という意見も分からなくはないが)。
欲を言えばもうちょっと表面の質感が向上すればなぁと思うが、最初期の予告と比べれば大分良くなったと思う。予告が出る毎に傷が増え汚れが増し、ガンプラ製作ブログを見ているようで楽しかった。公開直前まで手を加えていたのでは無いだろうか。
個人的な好みで言っても前作の重厚な描写やメカメカしさの方が好きに決まっているのだが、ベクトルの違いはあれど、やはりカッコ良いには違いない。
往々にしてロボットは「速く」「強く」変化していく物だし、ある程度の変化は覚悟していたので、思った程変わっていなくて良かったと思う。むしろこの方が好きという人もいるだろう。
ただ、少なくともこれで万事オッケーとは思って欲しくないので、次作があるのなら両方のファンが満足出来る、より良いバランスを模索してもらいたい。
・怪獣について
数は少ないがどいつも格好良い。本作の否定意見はどれもよく分かるのだが、ただ一点新怪獣のデザインだけはどうしても譲れない!俺はコイツらが気に入った!!もっとちゃんと見てくれよ!
確かに、ナイフヘッドの登場シーンみたいに、巨大さをこれでもかと強調するシーンは少ないかもしれない。だが、単なる巨大生物を超えた「怪獣」らしさと魅力はハッキリ言って本作の方が上だ!
最初の予告では「モンスター」と呼称されていたので、もう「怪獣」とは呼ばれずそれらしさも失ってしまうのかも…と心配していたが、全くそんな事は無かった。本作をめぐる流れにおいて、怪獣ライジンの姿を目にした時ほど安心した事は無い。それらしさが失われるどころか、むしろ前作以上に怪獣らしさが増しているではないか。平成ウルトラ怪獣的なテイストがあり、着ぐるみで培われた日本の「怪獣」独自のキャラクター性がしっかりと息づいていた。
上述したライジンはスタンダードな二足歩行タイプで、縁にずらりと牙を持つカッコ良い可動外殻、肉質の内側と二層になった頭が特徴的。この外殻を閉じて防御するシーンが何度もあり、変化があって面白くタフさも感じられる。外殻でジプシーのパンチを受け止め、吸収したパワーを手に集めて殴り返す所はとてもアガるシーンの一つだ。内側の顔の赤という色使いも前作には無かったポイントで、無二の個性を発揮している。自分にとって本作一番の推しメンである。
背中に沢山の棘を生やし、四足歩行するシュライクソーンも中々良い面構えで気に入っている。
二本の尻尾の先から棘を発射する体機能には、生体兵器としての説得力を感じる。
六本足で昆虫とトカゲを合わせた様なハクジャは、本作に足りない節足動物系を補っていると思う。一見地味に見えるがブーメラン形の頭、下顎から突き出した二本の牙等、形態的な魅力は多い。
そして彼等は合体し、メガ・カイジュウへと変貌を遂げる!
合体に伴い牙が大型化し顔立ちも変化、表皮のゴツさも増しているため、中々見応えのある姿となっている。三体の要素が満遍なく散りばめられていて面白い。
倒されるのは一瞬だが、派手に暴れて派手に散ってくれたので文句は無い。
本作はイェーガーに面白味が足りない反面、怪獣のデザインは結構な面白味があって良かった。カッコ良さと奇怪さのバランスが程よく、親しみを覚える。
出番は少な目だが、是非怪獣達を愛でてやって欲しい!
作曲者も交替したが、前作のメロディが随所に活用されているし、本作のスコアもそれなりに良い。サントラもどきの「コンピレーション盤」じゃなくて、劇中スコアの「サウンドトラック」が出ているので、早速ありがたく聴いている。
そんなわけで長らく書き連ねてきたが、要するに言いたいのは本作も意外と捨てたものじゃないという事である。見出だそうとすれば、前作の遺伝子をそこかしこに感じ取る事が出来る。顔は親に似ていないが、骨格や仕草に血の繋りを感じるイメージか。
似ていないと拒絶するか、その遺伝子を感じようとするか。自分の愛こそ試されていると思う。
まだ始まったばかりなので、気になっている方は是非大画面で観て欲しい。前作のファンでまだ様子を見ているレンジャーの方は是非ドリフトし、参戦して欲しい!もちろん、プリカーサーに忠誠を捧げる怪獣ファンの方も大歓迎だ!