ヴィクトリア女王 最期の秘密のレビュー・感想・評価
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孤独な魂が救われる
ヴィクトリア朝と言えば、イギリスがグレート・ブリテンとしてアジアやアフリカに帝国主義の侵略を展開した時期であり、世界史の授業を受けた限りでは、ヴィクトリア女王は冷血で鉄面皮の暴君という印象である。
しかしこの作品の女王は、強大な権力を持つ世襲の君主であることを自覚しつつ、人間らしさも見せている。立憲君主制が進みつつある内政の一方、対外的には強力な軍事力を背景に植民地化を進めている中で、必ずしも征服した地域の文化や宗教を蹂躙することはなかった。それは文化に寛容で、人を差別しないヴィクトリアの人間力によるところが大きかったのかもしれない。
夫の死からこれまで、王位の孤独にひとりで耐えてきたヴィクトリアは、5人の首相をはじめとする多くの政治家たち、自分に使える侍従たちや女官たち、子孫たちとその家族など、兎に角たくさんの人々と接してきたことで、人の本質を見抜く力を身に着けてきた。それは孤高の女王として生きていく上での最も重要な武器でもあった。周囲の人々はそんな女王を畏れ、敬遠しながらも、地位に恋々としている。それがまた女王の孤独をさらに募らせる。
さて本作品のインド人アブドゥルは、そんなヴィクトリアの眼鏡に適った人間である。夫がなくなって以降、忘れていた人との触れ合いの喜びを取り戻す。この辺りはほのぼのとしてとてもいい。春に氷が溶けるように、長い冬に閉ざされていた女王の心が漸く溶けていく。アブドゥルはイスラム教徒であることを貫きつつ、英国国教会の首長である女王に対等に接する。アブドゥルの平静な精神力もすごいが、受け入れた女王の胆力は驚嘆すべきであった。
イギリスの帝国主義には肯定する点はひとつもないが、ヴィクトリアが歴史的に重要な役割を果たし、そして最期は幸福な時を過ごしたことは、ひとつの救済であった。温かみのあるいい映画だった。
物足りないどころか、やや反感を覚えた
孝謙天皇と道鏡の関係を思い出しながら鑑賞。
たとえアブドゥルが人格者であっても、あそこまであからさまに重用すれば軋轢が起こるのは必定。しかも、英国王はイングランド国教会の長でもある。インドやイスラムの傾倒した思考や趣味を好むのはけして賢明ではない。例えば僕の場合、寺の子供たちがクリスマスにはしゃぐのには寛容になれても、天皇家の子女がICUに入学することに不快感があるわけで。
僕には、道鏡に溺れた孤独な孝謙天皇とダブって見えた。
全く異なる世界に生きてきた2人だからこそ心を開ける、人間愛が観る者を幸せにする
本作は、ほぼ実話をベースにして作られた作品だそうだが、何だか作品を観ていると実際に有った事とは信じられないような数々のエピソードに思わず笑みがこぼれてしまった。
ジュデ・ディンチ演じるヴィクトリア女王がとてもキャラ的にチャーミングで、魅力的だ。
世界中に植民地支配を展開していた当時のイギリス女王なら、誰でもが気難し屋で、怖い権力思考の筈と本気で信じていただろう。
ましてや、インド人のアブドゥールから観たら、決して彼の個人的な天敵でなくても、自国を植民地化した国の女王様なのだから、その人が人間味溢れ、本当は気さくで、シンプル且つ偏見がない懐の大きな優しい方だったと誰が想像出来る?
身分・国籍・年齢そして習慣や言葉も異なる人間同士、共通点が何一つなさそうな人間関係に果たして友情は成立出来るのか?
本作は有る意味では、女王とその身分違いのムンシ(先生)との友情物語だから、インド人である使用人からみれば、逆玉の輿のような出世物語とも言える。
でもこの2人の関係が、嫌味な感じが全くなくて、むしろ観ていて楽しくなるような作風に仕上がっているのは、ジュディとアリの息の合った見事な芝居が巧く生きているからこそだと思う!
人間って逆に違い過ぎる2人の間だからこそ、敢えて本音で付き合えると言う事が有るのかも知れない。
本作を観ていると人間の善い部分に光が当てられているようで、人間として生きる事に自信と希望光を見出せるような作品だった。
まあそんな2人の関係を面白く思わないヴィクトリア女王の周囲の人物も多数描かれてはいるものの、それはそれとしてサラリと流せて観られてしまいました。
そしてもう一つこの作品の素晴らしさは、ゴージャスなロケ地の数々!
宮殿や庭園、そして別荘に至る迄ゴージャスで見事!映画として充分に楽しめる作品だったので、そこまでしなくても良いかな?とか思いましたけど、みなさんはどう思いました?
今、我が国でも、皇室のご成婚問題で色々有りますが、我々庶民の様に好きだ、嫌いだだけで婚姻が出来るお話では無い問題だけに、余計にこの映画が、映画の世界に留まらず、身近なリアルな物語として興味深く、面白く観られた気がしました。
「ドライビング・ミスデージー」同様本作も人間愛に溢れる映画で観ていて気持ちが穏やかになれる作品でお気に入りの作品となりました!
脚本・演出・演技、どれも好し
19世紀後半の英国領インド。
監獄の記録係をしている若者アブドゥル(アリ・ファザール)は、ヴィクトリア女王(ジュディ・デンチ)即位50周年記念の金貨「モハール」を献上する役目を仰せつかい、もうひとりのインド人と英国に向かう。
金貨献上の際、「女王と決して目をあわせてはいけない」との注意を破り、女王と目をあわせたアブドゥルは、その後、女王に気に入られ・・・
というところから始まる物語で、ジュディ・デンチがヴィクトリア女王を演じるのは『Queen Victoria 至上の恋』に続いて2度目。
『至上の恋』では、スコットランド人の従僕ジョン・ブラウンに魅せられた女王は、今度はインド人のアブドゥルに魅せられ、彼からインドの文化・風習などを知ることになる。
本作の前半で、アブドゥルのことを「褐色のジョン・ブラウン」と周囲の者が揶揄するのは、『至上の恋』で描かれた事実を踏まえてのこと。
とにかく、18歳で即位し、早くに夫アルバート公を亡くしているヴィクトリア女王にとっては、大英帝国の君主として振る舞うのは相当なストレスだったろうし、周りの政治家たちは彼女にとっては退屈極まりないものだったろう。
それは、ことあるごとにソールズベリー首相(マイケル・ガンボン)に対して言う、「あなたの言うことはいつも退屈」という台詞からも窺い知れる。
で、この映画が興味深いのは、アブドゥルがヒンドゥー教徒ではなく、イスラム教徒という点。
キリスト教の一派である英国国教会の首長でもある英国女王が、イスラム教徒からイスラム教の教義そのものではないにしろ教えを乞うというあたりが興味深く、ヴィクトリア女王は新しい文化・風習、つまり人それぞれ各個人として受け容れる。
キリスト教は、異教徒は排除するもの、もしくは、改宗させるもの、というのが基本的な考えだから。
なので、周囲の者は、なるたけ早く、アブドゥルを排除しようとしているわけ。
日本版タイトルに「最期」と示されているとおり、映画の最後でヴィクトリア女王は逝去し、それとともにアブドゥルも英国を追われることになるのだけれど、ふたりがもっと早く出逢って、周囲もふたりの関係を認めていたら(仕方がないね、のレベルでもいいのだけれど)、もしかしたら世界は変わっていたかもしれないなぁ、なんて思ったりも。
まぁ、そんな堅苦しいことは抜きにしても、ヴィクトリア女王とアブドゥルのやり取りを観ているだけで愉しい。
スティーヴン・フリアーズ監督の演出はますます円熟味を増してきた感じ。
脚本のリー・ホールは『リトル・ダンサー』『戦火の馬』のひとで、これもやはり巧みである。
心地よい笑いと心地よい切なさ。とてもキュートな歴史映画。
笑って泣いて・・・なんだか気持ちのいい映画だった。スティーヴン・フリアーズ監督らしいというか、特に近年のフリアーズ監督の堅実かつ軽妙な演出が堪能できるキュートな歴史映画だったなと思う。「キュートな歴史映画」と自分で書いておいてちょっと笑ってしまった。でも本当そんな感じがする。
この映画の主人公となる人物が他界されて100年以上経過してから発見された日記によって明るみとなった新たな史実。「恋」と言うべきかどうかはあやふやだが、きっと「時めき」のようなものはあったはずだと、その日記を読んだ人物は感じたのだろう。「ヴィクトリア女王 世紀の愛」では若きヴィクトリアが後の夫となるアルバート公との出会いが描かれ、「Queen Victoria 至上の恋」ではアルバートの死後に親しくなった側近ジョン・ブラウンとのロマンスが描かれ、ついにはこの作品で100年以上隠されてきたインド人青年アブドゥル・カリムとの束の間の時めきまで暴かれてしまったヴィクトリア女王を思うとなんだか気の毒な気もするが、あくまで映画としての物語であるということを念頭に置いた上で、そして必ずしもこの映画に描かれたことが事実であろうとは鵜呑みにしない前提で、この映画はとても良かったし好きだった。
私がこの映画を観た映画館では、50代から60代以上のシニア層と呼ばれる世代の観客でほとんどの席が埋まっており、冒頭から劇場全体から常に笑い声が漏れていた。それはそれは楽しそうな笑い声があちらこちらから上がっていて、つられて私も声を出して笑ってしまった。特に前半の物語は喜劇性が高く、それらも気持ちよく笑えるコメディによって構成されていたので本当に安心して楽しめた。王室職員たちのリアクションとツッコミもイチイチ楽しかった。
また冒頭で威厳たっぷり(かつユーモラス)に登場するヴィクトリア女王が、アブドゥルと出会うや否やまるで少女のように愛らしくチャーミングになっていくのがなんとも素敵で、それを演じるジュディ・デンチがまた可愛らしいこと。女王としての畏怖を抱かせる存在感も併せ持ち、チャーミングさと畏怖とのバランスを見事に調整しながら女王の胸の内を表現していてもうさすが天下のジュディ・デンチと言う感じだった。それにやはりジョン・ブラウンのことを回想しながら彼の名前を口に出す時、ヴィクトリア女王を演じるのはやっぱりジュディ・デンチであってほしいとは映画ファンなら誰しもが思うことだろう。それに応えてくれたこの映画とジュディ・デンチに心から感謝したい。
大傑作だというほどの作品ではない。でも大傑作は観るのに体力を消耗する。「良い映画だったけどまた観ようとは思わない」という作品も多々ある中で、この映画なら明日もう一度観てもいいかもしれないと思いたくなる優しさと気持ちよさがあった。そっと傍に置いておきたい映画とでも言おうか。決して楽しいだけの映画ではないし、幸せなだけの映画でもない。寧ろ人種や人権にまつわる多くの皮肉が含まれているし最後は悲しみで幕を閉じる。それでもこの映画はとても気持ちのいい映画だった。
映画の終盤は、あれだけ笑いに溢れていた劇場がしんと静まり返り、鼻をすするような音がかすかに聞こえていた。「笑って泣ける」なんて映画の売り文句の使い古された常套句を思い出し、この映画こそまさしくそれではないか?と思った。
人種の壁を超えた女王とインド人の深い繋がり
原題: Victoria and Abdul
ジュディ・デンチ!
晩年のヴィクトリア女王とインド人のアブドゥルの友情の物語。
冒頭の食事会のシーンが秀逸で、老いた女王は生気を失い何物にも興味を失ったようで、ただ食べることに没頭していた。そんな彼女がアブドゥルとの交流を通じて生気を蘇らせていく。
そして、やっぱりか〜という感じの辛口なエンディングが今作をギュギュと引き締めた。
デンチは現在84才ですか。女優人生も終焉に近づいたこの時期に、代表作と呼べる作品をドロップしたことが嬉しくて仕方がない。
イギリス映画は老人力!
日本で言ったら樹木希林さん?!
ジュディディンチとかマギースミスが主役をはれるイギリス映画界って素晴らしい!
この映画ではジュディの演技で胸がいっぱいに。
インド人の俳優さんの魅力的な笑顔!!
演技者を魅力的に映す監督も素晴らしい。
マギーはダウントンアビーで感動させてもらったばかり。
日本映画で樹木希林さん主役のラブストーリーも作っておくべきだった!
勉強になりました
導入から前半の作りは見事なもの。主人公の宗教や職業を限りなく少ないシーンの映像だけで説明しきり、そしてどんな理由で英国に行くことになったか、何があって女王に寵愛されるようになったか、というところまでのテンポの良さは、監督の才能がほとばしっている。
主人公がどんな考えでいるのかは、全く描くことなく、女王の側からにフォーカスを集中するという割り切り。主人公の考えは、観客が想像してくれなのかな。しかし俺には、ちっともわからなかった。女王を使ってイスラム文化をメジャーにしたかったのか、それとも慕う女王に一生懸命伝える話は、自分が知っているイスラムの話だけだったのか。映画では、後者の純粋な気持ちという立場で描いているような気がしたが、どうなのだろうか。
自分としては、それなりに楽しめた作品でした。
ジュディ・デンチ…
ジュディ・デンチの表現力が素晴らしい。
女王の孤独と、そこから抜け出す際のときめきなどをきちんと感じさせる。彼女がアブドゥルに惹かれるのはとても説得力がある。
しかし逆はどうだろう…?その点についての説得力は正直感じなかった…
美しい愛情物語に
ずいぶんムンシが善人に描かれて、最後の最後まで泣かせる話だった、、、
のだけど、本で読む限りムンシはもっと強欲だし、晩年のヴィクトリア女王とは言い争いもあったと言う話だけど、そういう嫌らしいところは省かれて、純粋に二人の美しい友情愛情に絞られていて、それはそれでヴィクトリア女王の視点で見たムンシとの物語だと面白く見ました。制作した人たちのヴィクトリア女王への愛情も溢れていて、ジュディデンチがまたそれをうまく出しきっていて、真実はなくとも、愛の真実に溢れていた。
ムンシはずる賢い人で、ヴィクトリア女王との関係はインド人特有の愛情も金銭感覚をもって築けるあっさりした性格と認識していたので、彼の人生に思いを馳せたことはなかったけど、こういう終わりもあった
のか、、、な。
さすがジュディ・デンチ
まずこの作品は原題の方がグッとくると思います。この話が明らかになったのが後の事なので最期の秘密なんでしょうか?
今さらジュディさんの演技力の素晴らしさは言うまでもありませんがこのバイタリティには脱帽です!
さらに英国とインドの関係を再認識させていただきました。
是非映画館で🎦
孤独な晩年にもたらされた輝きの日々
初っ端は唯のお戯れの
おつもりだったのかもしれない。
長身のエキゾチックなハンサムへの
ほんの細やかな興味心は
日々の生活に欠くことのできない
極めて密な存在に膨らんでいく。
本作での女王とムンシの間には
愛情>友情のニュアンスが
あちこちに散りばめられている。
手を取り「わが息子」と声をかける姿には
素顔を迂闊に見せられぬ女王の孤独が
如何ほどのものだったのかが窺われる。
帝国主義における被支配国は
決して被搾取一辺倒ではない
新たな技術や文化が持ち込まれ
地域の発展を後押しする側面も。
アブドゥルが生まれたインドには
既に英国の息がかかっており
彼にとって彼の地はきっと
恵みの国だったかもしれない。
在位六十年記念式典の
女王の佇まいに衝撃。
説得力あるメイクアップが
ワンカットでいきなり
十数年の時を飛ばす。
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2019.1.27 MOVIX亀有にて1回目
冒頭からため息が漏れる。
タージ・マハルの壮麗さ
港にひしめく大型帆船
記念式典の華々しさ
その裏方たちの慌ただしさ
一気に物語に引き込まれていく。
いきなり女王の靴に接吻する
物怖じしないアブドゥルに
女王はどんな魅力を感じたのか?
出世欲や保身にまみれた
忠臣たちには見せることのない
プライベートな表情を
アブドゥルには見せていく。
重責と孤独に苛まれていた女王が
みるみるチャーミングになっていく。
女王の威厳や重厚感
かと思えば軽やかなユーモア
加えて老女独特の可愛らしさ
この役はジュディ・デンチの他に
考えられないほどのはまり役。
設定は悪くない
ヴィクトリア女王にインド人従者という設定は悪くない。
が、あまりにも作中の女王やその臣下、つまり王侯貴族たちが無知蒙昧に描かれ過ぎている。
演出でしょうがあれだとせっかくの設定が台無しです。
また序盤こそスタートダッシュでそれなりに面白みを見せますが、中盤からは燃料不足で息切れが酷い。
最初がピークであとはグダグダ、残念ながら前売り券まで買って見る価値はなかった…。
口直しにケイト・ブランシェットの『エリザベス』を見よう。
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