劇場公開日 2019年1月25日

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「孤独な魂が救われる」ヴィクトリア女王 最期の秘密 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0孤独な魂が救われる

2019年2月11日
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鑑賞方法:映画館

知的

 ヴィクトリア朝と言えば、イギリスがグレート・ブリテンとしてアジアやアフリカに帝国主義の侵略を展開した時期であり、世界史の授業を受けた限りでは、ヴィクトリア女王は冷血で鉄面皮の暴君という印象である。
 しかしこの作品の女王は、強大な権力を持つ世襲の君主であることを自覚しつつ、人間らしさも見せている。立憲君主制が進みつつある内政の一方、対外的には強力な軍事力を背景に植民地化を進めている中で、必ずしも征服した地域の文化や宗教を蹂躙することはなかった。それは文化に寛容で、人を差別しないヴィクトリアの人間力によるところが大きかったのかもしれない。
 夫の死からこれまで、王位の孤独にひとりで耐えてきたヴィクトリアは、5人の首相をはじめとする多くの政治家たち、自分に使える侍従たちや女官たち、子孫たちとその家族など、兎に角たくさんの人々と接してきたことで、人の本質を見抜く力を身に着けてきた。それは孤高の女王として生きていく上での最も重要な武器でもあった。周囲の人々はそんな女王を畏れ、敬遠しながらも、地位に恋々としている。それがまた女王の孤独をさらに募らせる。

 さて本作品のインド人アブドゥルは、そんなヴィクトリアの眼鏡に適った人間である。夫がなくなって以降、忘れていた人との触れ合いの喜びを取り戻す。この辺りはほのぼのとしてとてもいい。春に氷が溶けるように、長い冬に閉ざされていた女王の心が漸く溶けていく。アブドゥルはイスラム教徒であることを貫きつつ、英国国教会の首長である女王に対等に接する。アブドゥルの平静な精神力もすごいが、受け入れた女王の胆力は驚嘆すべきであった。
 イギリスの帝国主義には肯定する点はひとつもないが、ヴィクトリアが歴史的に重要な役割を果たし、そして最期は幸福な時を過ごしたことは、ひとつの救済であった。温かみのあるいい映画だった。

耶馬英彦