ヴィクトリア女王 最期の秘密 : 映画評論・批評
2019年1月8日更新
2019年1月25日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
生涯の当たり役を手に入れたジュディ・デンチが発散する、演じることの喜び
従僕とは、下男、または奉仕者という意味だ。形式的には。英国史上最長の在位期間、63年と7ヶ月を誇るヴィクトリア女王の場合は少し違う。彼女にとって従僕とは、長すぎた在位から来る疲労と倦怠感、そして、何よりも孤独を癒やしてくれる親友のような存在であったことが、前後2作品を観るとよく分かる。前作は、女王が最愛の夫、アルバートを亡くした1861年当時、親交を深めたスコットランド人、ジョン・ブラウンとの蜜月を描いた「Queen Victria 至上の恋」(97)であり、後作が、それから26年後、即位50年を迎えた女王がインド人青年、アブドゥルと交流を深めていく様子を綴る本作だ。
50周年の式典の席で記念金貨を献上する役目を担い、遥々バッキンガム宮殿にやって来たアブドゥルを、女王が一目で見初めたのは、目ためがハンサムだったからだけではない。女王の前に跪き、いきなり爪先に口づけする大胆な行動や、母国の美しい風景や文化を熱く語り聞かせるその物怖じしない態度が、公務に忙殺され、精神的には死に体状態だった女王の眠っていた魂に火を灯したのだ。実子を次々と病で亡くし、生涯、家族とは縁が薄かった女王にとって、アブドゥルは遠い国からやって来た息子のような存在だったのかも知れない。
ヴィクトリア女王の玄孫(やしゃご)に当たるエリザベス2世を描いた「クィーン」(06)でもそうだったように、監督のスティーヴン・フリアーズは危機的状況に於いても尚、威厳を保ち、愛と友情の普遍性を尊ぶ英国君主への敬意を忘れていない。「インド人に王室を乗っとられた」と騒ぐ皇太子や首相、そして王室職員たちを、「卑劣な差別主義者!」と一蹴する女王の何と逞しいことか!?
今年84歳にあるジュディ・デンチが、「至上の恋」に続いて、再び、当時68歳のヴィクトリア女王を演じている。ここでは、役柄と実年齢の差は問題ではない。生涯の当たり役を手に入れた名女優がその小さな体から発散する、演じることの喜びが、愛して止まない女王役を介して観客にまで伝わる瞬間を、思う存分楽しめばいいのである。
(清藤秀人)