目撃者 闇の中の瞳 : 映画評論・批評
2017年12月19日更新
2018年1月13日より新宿シネマカリテにてロードショー
幾多の謎をかき分け、恐ろしい真実に突き進む台湾産サスペンス・ミステリー
多くの映画ファンが台湾映画と聞いて思い浮かべるのは、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンといった巨匠の名前やみずみずしい青春映画の数々であろう。その半面、近隣の韓国や香港で盛んに作られているジャンル映画の印象は乏しく、2014年の「共犯」が記憶に新しいくらいなもの。そんな台湾から物凄いサスペンス・ミステリーが出現した。このジャンルの愛好家は、新年の景気づけを兼ねて劇場に走ることを強くお勧めする。
主人公は新聞社の若きスター記者シュオチー。ふとしたきっかけで9年前に自らが目撃者となった未解決の当て逃げ事件を調査することになった彼が、想像を絶する真相に迫っていくという物語だ。こう書くといかにも古風なミステリー劇を連想するかもしれないが、まず序盤に提示される“謎”の数の多さが普通ではない。現場から車で逃走した加害者は誰なのか。瀕死の重傷を負って病院に運ばれ、後日行方不明となった被害者の女の子はどこへ消えたのか。乗り物事故を起点とするミステリーは少なくないが、加害者と被害者の双方に解かれるべき重大な謎が配されたパターンは珍しい。おまけに、同じ日に発生した身代金目的の幼女誘拐事件との関連性も気がかりなポイントだ。
これが長編2作目のチェン・ウェイハオ監督は、主人公が粘り強い記者魂を発揮して重要人物の捜索を繰り広げ、目撃時に撮った写真や事故当日の新聞記事等を調べ上げていく過程を、彩度を抑えた手持ちカメラの映像で描出。視点の異なる複数の"真実"をフラッシュバックで見せながら、作り手の気迫が乗り移ったような生々しい語り口で、うたた寝厳禁の複雑怪奇なストーリーをぐいぐい展開させていく。
すべての出発点となるカー・クラッシュのビジュアル・イメージが脳裏に焼きつくほどには鮮烈に撮られていないこと、主人公の周辺だけで都合よく話が進むことなど、いくつか難点もある。それでも本作の吸引力が衰えないのは、華麗なトリックの種明かしや神がかり的な名推理などには目もくれず、はるかに恐ろしいクライマックスに突き進んでいくからだ。この世の闇にさまよい込んだ主人公が行き着く果てには、罪深き欲望と妄執に取り憑かれた人間たちの暗黒面が広がっている。いつしかサスペンス・ミステリーがサイコ・スリラーへと変貌する、その狂気じみた光景の“目撃者”となるのは、あなたである。
(高橋諭治)