「サニーサイドとダークサイドの90年代 ルーズソックスと死体と小沢健二」SUNNY 強い気持ち・強い愛 マユキさんの映画レビュー(感想・評価)
サニーサイドとダークサイドの90年代 ルーズソックスと死体と小沢健二
一言で言えば、オリジナルの韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』から「政治色」を抜いて、90年代の日本社会と東京を中心としたユース・カルチャーを背景に、オリジナル作品の人間ドラマを再現した作品だ。
労働運動にのめりこみ、横領で逮捕されるナミの兄は、アニメ『エヴァンゲリオン』に熱中し、1999年のハルマゲドンで世界が終わると叫ぶ奈美のオタクでひきこもりの兄へ。「サニー」と敵対するグループとの乱闘は、民主化要求デモの現場から、屋外プールへ。ナミの父は政府の「下働き」をする公務員。奈美の一家は阪神・淡路大震災で被災して、淡路島から東京に移り住んできた被災家族。80年代の政情不安定な韓国が、90年代のコギャル文化全盛の日本に置き換わった。そして、おそらく意図的にだろうが、オウム真理教事件への言及はない。一見「暗さ」を排除したかに思えるが、はたしてそうか。
同じく90年代のユース・カルチャーを背景に、『SUNNY』とは対照的な若者群像を描いた行定勲監督『リバーズ・エッジ』と比較すると興味深い。日常の空虚感やキツさをやり過ごすため、河原で見つけた死体を「宝物」にする若者たち。いじめ、セックス、家庭内暴力、摂食障害、自殺。ダークな世界だ。しかし、奇妙なことに、両作とも羨望とキラキラ感の象徴であるモデルという存在にスティグマを刻印している。『リバーズ―』では、モデルのこずえは孤独で、過食嘔吐を繰り返す摂食障害。『SUNNY』では、モデルの奈々は顔に傷を負い姿を消す。
オリジナルの『サニー』とリメイクの『SUNNY』そして『リバーズ―』に通底しているのは、「青春の捏造」だ。「あの時代は輝いていた」「あの頃はよかった」「青春時代は暗かった」「あれは『黒歴史』だった」etc.。本当にそうか。過去をちょっと美化したり、または醜悪化したり。「事実」とはちょっと違う加工した記憶を私たちは「真実」だったと思っていないか。そうやってナミは、奈美は、ハルナは生きていく。