「見事な90年代再現の中にある、なつかしい”電話ボックス”」SUNNY 強い気持ち・強い愛 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
見事な90年代再現の中にある、なつかしい”電話ボックス”
本日引退した安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」(1996)をテーマ曲に据えて、流れる挿入歌がすべて90年代J-POP。"安室ソング=青春を振り替える"というテーマ性や、世代別のキャスティングに旬なブッキングを成功させ、しかもこの上映タイミング。この作品、不思議と世代によって世代なりの受け止め方ができる映画である。プロデューサー(川村元気)は、"してやったり"だろう。
そんな仕掛けと知りつつも、わざわざ安室奈美恵の引退日に鑑賞している自分も自分だが…(しかも2回目)。
オリジナルは韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」(2011)で、それを大根仁監督がリメイクするという試みが見どころ。
近年では、「あやしい彼女」(2014年韓国オリジナル版→2015年中国版→2016年日本版)が記憶に新しい。しかも3バージョンすべてが国内で映画館上映されたというのも珍しく、それほどテッパンである。
今年は、「銀魂」の福田雄一監督によるラブストーリー「50回目のファーストキス」(オリジナルは2004年の米国版)が大ヒットしている。また、東野圭吾原作の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017)の中国版が10月に国内公開予定と続いている。
専業主婦の奈美は、入院中の母親の見舞いの際、かつての親友で"サニー"のリーダーだった芹香と再会する。ところが芹香は末期がんで余命ひと月だった。彼女は、"死ぬ前にもう一度、サニーのみんなに会いたい"と言い、とある事件で止まっていた20年前の時計が動き出す。
主人公の奈美の現在を篠原涼子、高校時代を広瀬すずが演じるほか、芹香は板谷由夏。また"サニー"のメンバーで小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美が出演する。唯一、池田エライザが高校時代と20年後をひとりで違和感なく演じているのが凄い。
本作は、基本的にオリジナルに忠実である。シーンによっては、笑ってしまうくらいフレームワークや編集ポイントが、そのまんまだったりするものの、ローカライズのために微妙に設定を変えている。
7人だった"サニー"のオリジナル版メンバーは、日本版では6人になっているが、"イム・ナミ"だった主人公の名前はそのまま"奈美"にしている。見比べると面白い。
使っている音楽が違うだけで、その装いはガラッと変わる。90年代J-POPが全体を支配していることはもちろんだが、序盤の女子高生たちの登校ダンスシーンはちょっとしたミュージカル演出である。ここが「モテキ」(2011)の大根監督らしいポイント。
90年代再現の配慮はすみずみに行き届いていて、街並みの看板が"Windows 95"や、"CCレモン"(94年販売開始)、"Globe"のアルバム広告などに差し変わっている。
そして、DJをやっている藤井渉(三浦春馬)が持っているレコードバッグが、2007年に閉店した"Cisco(シスコ)レコード"のだったりする。また何気なく見過ごしてしまいそうになるが、繁華街のど真ん中に"電話ボックス"がある。女子高生たちの小遣い稼ぎ"テレクラ"を支えていた、いまはなき存在である。
ところで、そもそもタイトル「SUNNY」は、ボニーMのヒット曲「Sunny」(1976)をオリジナル版が使っていたからで、この曲がオザケン(小沢健二)の「強い気持ち・強い愛」(1995)に差し替えられている。オザケンのヒット曲ながら、本人作曲ではない珍しいシングル曲で、作曲は筒美京平だったりする。
主題歌になっている「SWEET 19 BLUES」は、オリジナルでは、シンディ・ローパーの名曲「タイム・アフター・タイム」をタック&パティがカバーしたもの(1988)を使っている。
高校時代のSunnyの別れシーンが日本版にはない。ハ・チュナ(芹香に相当)の、"もし苦労している奴がいたら、しあわせになるまで付きまとう。誰が先に死ぬかは分からないけど、死ぬその日まで、死んでもSunnyは永遠だから…"という言葉が、エンディングの遺言の前振りになっているわけだ。
好みの問題だが、日本版は"明るいお祭りエンディング"で、オリジナル韓国版のニュアンスはより感傷的で泣ける。
(1回目·2018/8/31 /2回目·2018/9/15 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)