ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのレビュー・感想・評価
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over-explain と bananafish
このオーバーエクスプレインという助言が決定的となった気がする。「ブルジョア的富裕層を批判してるね?」の質問に「読者次第だ」と答えるサリンジャー。戦友が次々と死んでいき、死屍累々とした凄惨な現場を経験したため幾度となくフラッシュバックに悩まされる日々。仏教にも教えられ、『ライ麦畑でつかまえて』の下地を作っていく様子がリアルだった。
しかし、あくまでもフィクション作家を目指すジェローム・デビッド・サリンジャー。赤い帽子を被った熱烈なるファンが「なぜボクのことをしってるんだ?」とまで言わしめるほどリアルなフィクションでもあったのだ。
ケビン・スペイシー演ずるウィット・バーネット教授との関係も描き方が上手い。処女短編となる『若者たち The Young Folks』にも因縁があり、掲載拒否を続けるも「作家に向いてるか確かめるため」とようやく認められたことを知るエピソードも美しい師弟愛だと感じた。
恋人ウーナをチャールズ・チャップリンに取られ、戦争のトラウマとも闘いつつ、ドイツ人医師シルヴィアといつの間にか結婚、そして離婚。しかし、最終的にはクレアと結婚。『ボヘミアン・ラプソディ』とは違った魅力を見せるルーシー・ボーイントンにも注目だ。
隠遁生活が彼の人生でもっとも長かったのだろうけど、この秘密めいた生活があってこそ、世界中で愛される要因なのだろう。未だに小説は読んでないけど、そろそろ読みたくなってきた。
小説を読みたくなった‼️
小説家J.D.サリンジャーの半生をみて、純粋な青年が戦争を経験して傷心したことや名声をえることで失った見返りを求めずに小説を書くこと!
ビジネスにより失われた心を取り戻すために人がいない自然に囲まれた生活を選ぶところに人間力をみた。
ライ麦をつかまえてがサリンジャー自身のことを書いたのがわかり是非、読みたくなった。
ライ麦畑を再読したくなった
学生時代に一通り読んだときに、なんとなくサリンジャーを読むとカッコいい、という青い感覚があったけど、どこまで理解できていたのか我ながら怪しい。
再読したくなった。
彼の作品が出来る背景や、人嫌いになっていく過程を、少し早足かなと思いつつ追うことが出来て、とても惹き込まれた。
筆を折ったとか私生活に謎が多いとか、途中から歴史上の人みたいな扱いだったけど、亡くなったのは最近の2010年だったんだなぁ。
駆け足すぎて淡々と進んでいく気がしたので、それが少し残念だったけど、きちんと深く描こうとすると映画の時間じゃ足りないんだろうな。
落ち着いた色合いの映像に、役者さんたちがさらっと、でもじっくりと演じてるのもよかった。
当時の作家はカポーティしかり、現実と妄想の世界の入り混じり方がなかなか凡人にはわかりづらいんだけど、出版されないままの作品がまだまだたくさんあるらしいので、いつか遺稿として出版されることを楽しみにしたい。
タイトルなし
サリンジャーは
本を出版する直前ヨーロッパ戦線に従軍
ノルマンディー上陸作戦の激戦地へ赴く
その間に恋人が
(あの)"チャップリン"と結婚してしまう😲
帰還後
戦争で負った深い心の傷に悩み
東洋思想・瞑想の世界にのめり込む
.
この映画ではサリンジャーの謎に満ちた半生
青春のバイブル”ライ麦畑でつかまえて"
この小説の誕生秘話が描かれています
.
生み出すということは、大変だ
一言、「生み出すことは、大変だなあ」。
先に謝ります。サリンジャー作品読んだことがありません(以前浜田省吾さんの記事で、名前を知った程度)。
いや、洋書を読んだことがないが正しい。
いかにして「ライ麦畑でつかまえて」が生まれていったか。
そのサクセスストーリー的な、ガッツポーズはありません。
何を書いても、編集者たちから「説明が多すぎる」「わかりにくい」云々のダメ出し。
加えて「パール・ハーバー」「ノルマンディー」等の戦争で受けた、心の傷。
そのPTSDに悩まされながら、執筆していく様は痛々しい。
作品が売れて、映像化(ビリー・ワイルダーの名前も出てた)を持ちかけられても。
自分の分身である作品を、他人に加工されるのはいや。インタビューもNG。
出版する=自分の手を離れるということは、大切に書いたものだからこそ。
その世界を守りたかったのかな。
印象的なシーン。後半書き悩むサリンジャーが、「瞑想」(なんて宗派?だったか忘れた)に出会い。
それまでの書き悩むシーンから、ちょっと後光がさした感じで原稿が進むところ。
心を落ち着かせるのは、大切なアイテムだもの。
「出版が全てではない」。編集者のアドバイスが、サリンジャーを孤高な作家に向かわせたのかも。
著書を読んでもいなくても。偉大な作家の半生を知ってもいいかもしれません。
ライ麦畑は読んでいない
ライ麦畑を出版するまでは、恋人の裏切りや第二次世界大戦などの出来事に翻弄されるのだが、どうして執筆したのかは定かでない。
有名人になってからは世間から隔絶するが、その動機もちょっと弱い気がする。
情ないことにサリンジャーが理解できないので仕方がないか。
作家に、成る
彼のように、見返りを求めずにつづけられるほど打ちこめるものが、自分にもあればと、心の底から思いました。
「ベストセラー」もそうでしたが、20世紀のアメリカ文学を代表するような作品を書き上げたサリンジャーですら、編集者の助言を参考にコツコツと努力していたというのが、とても印象的でした。成功は、失敗を積み重ねなければ届かない、ということを教えられました。
昔読んだ「ライ麦畑でつかまえて」を読み返したくなる
サリンジャーという人がどんな人だったのか、実は全然知らなかった。
彼にとって、小説を書くということは、作家として周りの人に読んで欲しいということではなく、
彼自身の心の癒しだということがわかった。
ニコラス・ホルトという素敵な若手英国男優を知った
「マッド・マックス 怒りのデスロード」の異様な白塗りスキンヘッド姿がトリッキーすぎて、同一人物とは最初分からず。
この作品では、プライドが高く偏狭な作家を見事に演じていて、彼の演技の幅広さを知った。
<2019年1月21日 劇場にて鑑賞>
二本立て二本目。サリンジャーの伝記映画。こんな人なんですね、よく分...
二本立て二本目。サリンジャーの伝記映画。こんな人なんですね、よく分かった。
父、恋、戦争、心に闇を作っていく。そして弱った心にとりついてくる宗教。
人間ってこんなにも脆いものなんですね。日本でもそうだけど作家ってこんなタイプ多いですよね。やっぱりかわってる?(笑)
ニュアンスが伝わらないような気がして、翻訳ものは嫌いなのだが、読みたくなってきますね「ライ麦」どうもヤバイ作品のよう(笑)
見て楽しいとは正直言えぬ作品、心が弱っているときは避けましょう(笑)
金言に救われる物語
かなり良かった。脚本、台詞が好きです。
何回か映画で見てきたノルマンディー上陸は、俺の中ではトラウマ級。ライ麦の一部を背負ったサリンジャーが、そこにいた事は初めて知りました。衝撃的。
伝記としては陳腐なのかも知れませんが、サリンジャーに投げ掛けられる金言が素晴らしかった。
シーモアを読んだのが中二の時。早過ぎました。全く響かず。おかげでライ麦は、恥ずかしながら未読。いっそ、一生読まずにおこうかと思う。
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4/14追記
サリンジャーで人生変わった。逆説的に。
中学生の頃、かなりの読書家だったんだと思う。坂下昇訳の白鯨が枕の友で、心躍らせ震えながらページをめくり、詩を読んでいるような文学世界にドップリ浸っていた。ある日、教育実習でやって来た「大学生」にサリンジャーを勧められた。「今思えば」だが、もっと他に勧めるべき作家、いるだろ!って彼には説教してやりたい。
とにかく、シーモア序章を早速買い込んで来て、一気読みして、衝撃を受けた。全然響かない。ツマラナイ。なんなの、これ?そこから読書対象が一転。文芸放棄。いや、読んでも読んでも判らない世界から逃げ出すことにしたんだと思う。教育TVで見た竹内均先生にはまった後は、アシモフ・ガモフに飛ぶ「お決まり」のパターン。この時点(高校入学時)で、理系人生確定。シーモアを読まなければ、理系選択は無かったかも知れない。そもそも、数学の一部は今でも苦手です。
サリンジャーには、その後も色んな思い出があります、ちょっぴりピンク色の。ライ麦は、あらすじは知ってますが、読んだ事は、いや、まともに熟読したことはありません。が、一生、謎のままの小説にしとくことにした。ま、それもアリだろうと思う。
納得の真相
この作品を通じて初めて「ライ麦畑でつかまえて」を知りました。絶頂期に表舞台から姿を消した真相を上手く描いた作品。戦争でのトラウマとフラッシュバックに苦しんだサリンジャーの気持ちが十分伝わってきました。
2019-71
誰もが感じること
みんなが吐き出せなかった心の悩みを文章にした人だったのかな。
素敵な家族や友人にも恵まれたのに幸せを感じ切れなかった人。
ライ麦畑を読んだことがないので、詳しくはわからないんですが、作者の人間性はととも感じれた。
なぜ、彼は姿を消したのか
ケヴィン・スペイシーが出演してる映画にお金を払うのもどうかと思ったのだけど、ニコラス・ホルトを観たい!と思って行ってきた
で、結局のところ観てよかった
伝説の小説家 J・D・サリンジャーのことが少しわかった気がした
この映画は世界的ベストセラー小説「ライ麦畑でつかまえて」を書いた小説家 J・D・サリンジャーの生涯を描いている
どのようにして「ライ麦畑でつかまえて」が生まれ、その後、なぜ彼は姿を消してしまったのか
これまで多くの謎に包まれていた「その理由」がわかる作品になっている
私が「ライ麦畑でつかまえて」に初めて出会ったのは20代前半の頃だった
大人たちから押し付けられた社会に反発し、ひたすら悪態をつき続ける主人公ホールデンに共感し「僕は子供たちが崖から落ちないように見守る大人になりたい」と言うホールデンの優しさに感動した記憶がある
そのホールデンというキャラクターの背景には、サリンジャー本人の戦争体験があったことを、この映画を観て初めて知った
サリンジャーは1930年代後半から第二次世界大戦に従軍し、ヨーロッパへ派兵され、多くの仲間たちが死んでいくのを目の当たりにしてしまう
壮絶な戦争体験をした後、終戦して帰国したサリンジャーはPTSDに悩まされることになる
そんな彼が戦時中も、戦後も、心の拠り所としたのが「小説を書くこと」だった
心に深い傷を負ったサリンジャーが生み出した「ライ麦畑でつかまえて」はベストセラーとなり、サリンジャー本人は人々の注目を集めるようになる
その当時、社会に溶け込むことができないホールデンを描いた「ライ麦畑でつかまえて」が爆発的ベストセラーになった背景には、サリンジャーと同じように戦争の後遺症に悩んでいた人々がたくさんいたということだと思った
それは、この映画の中にも出てくるけれど「ホールデンは私だ」と信じ込む人々のことだ
彼らもサリンジャーと同じように従軍してPTSDに悩まされたからこそ、ホールデンに共感し、まるで自分のことを書いていると思うのだ
1980年、ジョン・レノンを暗殺したチャップマンの愛読書は「ライ麦畑でつかまえて」だというのは有名なの話だ
サリンジャーは、自分自身を戦争後遺症から救うために本を書いたのだが、彼が生み出したホールデンが彼から離れて一人歩きしてしまったのだ
そして一気に増加したホールデンのファンたちは創造主サリンジャーを英雄視するようになる
サリンジャー本人は小説を書いても救われなかったのに、彼の小説を読んで救われた人々がたくさんいたというのは、なんとも皮肉な話だ
私は「ライ麦畑でつかまえて」と出会って以来、サリンジャーがその後隠遁生活を送ることになったのが、とても謎だったのだけど、この映画を観てようやく理解できた
サリンジャーという人は、小説家向きではあるけど、戦争に行くにはあまりにも繊細過ぎたのだ
その心は戦争によって破壊され、サリンジャーは自分を守るために固い殻を作ってしまった
その反発心がホールデンというキャラクターを生み、彼の心の奥にある優しさが「崖から子供が落ちないように見守りたい」という言葉を生み出したのだと思った
サリンジャーに隠遁生活を送らせた一番の要因は第二次世界大戦だったのだ
「フィールド・オブ・ドリームス」では伝説の小説家として登場し、「小説家を見つけたら」のモデルと言われるサリンジャー
そこまで熱望されても、一切、マスコミの前に姿を現わすことはなかったサリンジャー
そんな彼の生涯を知ることができて、観てよかったと思った
それにしても、切なずぎる生涯だったな
J・D・サリンジャーの半生記。
TOHOシネマズで年末年始に実施されていた、TOHOシネマズのスタッフさんの中で笑顔で働く姿が素晴らしく優秀な人を選ぶ「スマイルアワード」という企画に、私も1票投じさせて頂きましたらば、投票者の中から抽選と言うことで、TOHOシネマズの特別ご鑑賞券に当選しましたので、今回は、その特別ご鑑賞券を有効活用すべく、先週の2/4(月)に、TOHOシネマズ二条で『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』を鑑賞。
当初は、『蜘蛛の巣を払う女』を観たかったのですが、予想外にも僅か3週間で既に終映してしまっていたので、このJ・D・サリンジャーの伝記映画を観ることにしたのですが、率直な感想としては、今まで、私は、あの有名な『ライ麦畑でつかまえて』の著者であり、長く隠遁生活を送っていた作家ということ位の知識で、その他には何ひとつとして知らなかったJ・D・サリンジャーのその半生の一端を、今回知ることが出来て、観て良かったと思えた作品でした。
J・D・サリンジャーが今年(2019年)1月1日で生誕100周年を迎えると言うことで、それを記念して、彼にまつわる映画がここ最近数本作られているみたいですが、本作はその中でも、名作を生み出したにもかかわらず、その後隠遁生活を送っていた伝説的作家J・D・サリンジャー。彼のその謎に満ちた半生と彼の小説の誕生秘話を描いた、実直な伝記映画です。
お話しの流れ的には、
時は、1939年のニューヨーク。
ユダヤ系の食品輸入業で財をなした父親に反発し、大学中退を繰り返していた20歳のジェリーことジェローム・デヴィッド・サリンジャー(ニコラス・ホルト)は、コロンビア大学の創作文芸コースを受講するのでした。
そこでは文芸誌「ストーリー」編集長でもあるウィット・バーネット教授(ケヴィン・スペイシー)と出会い、短編『若者たち』を書き上げ、出版社に持ち込むがことごとく掲載を断られる中、紆余曲折がありながらも書き続け、最終的には文芸誌「ストーリー」に採用され、ジェリーは作家としての第一歩を踏み出します。
そんな中、ジェリーは、劇作家ユージン・オニールの娘ウーナ・オニール(ゾーイ・デゥイッチに出会い一目惚れするのでした。自由奔放なウーナに振り回されながらも、マンハッタンの社交界に出入りして恋愛を楽しむジェリー。
その一方、作家の仕事の面では、著作権代理人のドロシー・オールディング(サラ・ポールソン)を介して短編小説を出版社に売り込むものの不採用が続くのでした。
やがて、自分の分身とも言える、コールデン・コールフィールドを主人公にした短編小説が、権威ある「ニューヨーカー」誌に掲載されることが決まるのでしたが、その矢先に、1941年、真珠湾攻撃が勃発し太平洋戦争が始まるのでした。内容が戦時下にはふさわしくないという理由から掲載は延期になり、そして、ジェリーも陸軍に入隊し、戦地に赴くのでしたが、ヨーロッパ戦線を巡る間も空き時間を見つけては執筆を続けていたのでした。
しかし、戦争が終わったら結婚するつもりでいた、恋人ウーナが、さる超大物喜劇俳優と親子ほどの年齢の差での結婚をしたとの衝撃的な知らせや、日々激しくなる戦況に神経をすり減らされる中、書くことだけが心の支えになっていたのでした。
しかし、ノルマンディー上陸作戦やその後の戦闘で多数の仲間を失い、さらにナチスの強制収容所での惨状を目の当たりにし、ジェリーは力尽き、ドイツの神経病棟に入院するのでした。
そして、ジェリーはバーネットの元で選集を出版するべく、ドイツで結婚したシルヴィアを伴ってアメリカに帰還を果たすのでしたが、バーネットの「ストーリー」誌の経営難により出版の計画は頓挫し、ジェリーはバーネットに絶交を言い渡すのでした。
その後、短編『バナナフィッシュにうってつけの日』が「ニューヨーカー」誌に掲載され、話題となり同誌と独占契約を結ぶなど作家としてのキャリアは上向きになるのでしたが、戦禍で被ったトラウマが彼を苦しませ続け、最大の目標であった、ホールデン・コールフィールドを主人公にした長編の執筆も進まない中、瞑想や禅文化などの東洋思想との出会いから、生まれ育ったニューヨークの都会の喧騒から離れて、執筆活動を行うことにするのでした。
1950年、ジェリーは戦地でのフラッシュバックに対し、瞑想などを採り入れながら向き合いながらも、遂に長編小説の『ライ麦畑でつかまえて』を完成させるのでした。
それまでのアメリカ文学とは全く異なる斬新な語り口を持った同作品は、出版関係者の間では賛否両論でしたが、実際に翌年に発刊されると読者に大反響を呼んでベストセラーとなるのでした。
一躍時の人となるジェリーでしたが、戦争での後遺症から、マスコミやファンの狂騒や過剰なファンによるストーカー行為から背を向けるかの様に、ニューハンプシャー州コーニッシュという田舎町に転居し、隠遁生活を送ることとなるのでした。
そしてパーティで知り合ったクレア・ダグラス(ルーシー・ボイントン)という女性と再婚。
子供にも恵まれるのでしたが、次第に家族との暮らしよりも創作活動の方に没頭していくのでした・・・。
と言ったイントロダクションの伝記映画でした。
実は、私は、生憎と、J・D・サリンジャーの代表作である『ライ麦畑でつかまえて』を読むのも途中で挫折してしまっていたくらいなのですが、それでも、この伝記映画は面白く観ることが出来ました。
お話しの展開の上で、本作品は、映画としての作り込みが甘いなどといった辛辣な意見も散見しているみたいですが、確かに、戦争体験が主人公であるJ・D・サリンジャーの人生に大きな影を落とす要因になるにもかかわらず、肝心の戦場のシーンが心象風景的にしか表現されていない点を描写不足と不満に感じられる人も居られるかも知れないですが、直接的に戦場のシーンを描かなくても、僅かなシーン描写と劇中の字幕台詞でも、あのノルマンディー上陸作戦や、その後、ドイツの強制収容所の惨状を目の当たりしてきた事も分かりましたので、アメリカの帰還後の後遺症、所謂、今で言うところのPTSD障碍に苦しむのもよく理解出来ました。
ただ確かに、最初のドイツ人の妻のシルヴィアを実家に連れてきたシーンはあるものの、その後はほぼそれきりだったり、各出来事の生じた時期や年月の経過が不明瞭で、やや分かりづらい点など確かに伝記映画としては表層をなぞっただけにも映るといった欠点も見受けられましたが、概ねは、ジェリーことJ・D・サリンジャーの半生は理解出来ました。
J・D・サリンジャーと言えば、映画『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)の原作本でもある、W・P・キンセラによる『シューレス・ジョー』の小説の中で登場していたので、彼が隠遁生活を送っていたのは、私はその小説の中で初めて知りましたが、ここ最近、公開されている映画『ライ麦畑をさがして』(2001年)や『ライ麦畑で出会ったら』(2015年)でも、サリンジャーを訪ねる若者達が描かれていますが、そういった行動がある種の社会現象化しつつあったのかも知れないですね。
また、本作品の劇場パンフレットを読みますと、1980年のジョン・レノン暗殺犯のマーク・ディヴィッド・チャップマンは犯行現場で『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいたり、逮捕後の裁判で小説の一節を朗読していたり、また、その翌年1981年のレーガン大統領暗殺未遂犯も『ライ麦畑でつかまえて』を所持していたりと、偶然かとは言え、この『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデン・コールフィールドに心酔する若者が過度な異常行動を採りがちな傾向も見受けられるので、サリンジャー自身も、早くから危険を察知して、愛読者からのストーカー行為などから隠遁生活を送らざるを得なかったのも分からないでもなかったですね。
ただ、隠遁生活が逆に伝説化し、謎が謎を呼びミステリアス度が増していくといった悪循環だったかも知れないですね。
2010年1月27日に91歳で亡くなったJ・D・サリンジャーですが、果たして、彼はひとりぼっちでも幸せだったのかなと思うと切なくなってきますが、PTSD障碍から解放されるには、ただひたすらに創作活動に打ち込むしか心癒やされる術がなかったのかも知れないですね。
やたらと挿入されていた回転木馬のシーンなどは、サリンジャーの小説のファンの人にとっては、もしや小説の一節にまつわるような、意味深な演出だったりしていたのかと思いますと、本作品も、また違った楽しみ方が出来るのでしょうね。
でも、私の様にサリンジャーの小説もほぼ読んでないに等しい人間でも、ベストセラー小説を残して、すぐに表舞台から姿を消した1人の小説家の心の葛藤を描いた半生記として読むことも出来ますし、ある若い作家の書籍が出版に至り大反響を浴びるまでといった一連の流れなど観る視点によっても興味深く観ることが出来ますので、特段、J・D・サリンジャーに興味がない人でもそれなりに楽しめる映画にもなっていたと思いました。
配役に関しましては、ジェリーことJ・D・サリンジャー役を演じていたニコラス・ホルトは本当に適役だったと思います。
彼を観ていると、雰囲気的に日本映画界の個性派俳優の柳楽優弥さんを思い起こしてしまいますが、自信に満ちた目や不安げな目、狂気に満ちた目など様々な表情を目だけでも表現出来る素晴らしい若手俳優だと思いましたし、だからこそ『X-MEN』シリーズでもビースト役を演じているのかなとも思いましたね。
そしてコロンビア大学の恩師であり文芸誌「ストーリー」の編集長ウィット・バーネット教授役のケヴィン・スペイシーはさすがの安定感ある演技で上手かったですね。
本当に、あんな事件さえ過去に起こしていなければ今後ももっともっと活躍の場があったのにと思うと悔やまれてなりません。
著作権代理人のドロシー・オールディング役演じるサラ・ポールソンは『オーシャンズ8』の時の可愛らしいコメディパートとは違った実力派女優ぶりを発揮してくれていましたし、『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーの恋人役を演じていた、ルーシー・ボイントンもサリンジャーの二番目の妻クレア・ダグラス役で出演しています。
私的な評価と致しましては、
事細かな説明や演出が不足しているために、J・D・サリンジャーの半生を描く映画としては、表層をなぞっただけにも見えなくもないですが、私はそれでも概ねは理解出来ましたし、あくまでもサリンジャーを知る入り口的な作品としてはよく出来た実直な伝記映画だと思いました。
また彼のような戦争体験ほどの凄まじい後遺症ではないにせよ、私も激務から、PTSD障碍を発症してしまい後遺症と未だに闘病していることからすれば共感してしまう点も多々ありましたので、今まで謎だった、何ゆえに隠遁生活をせざるを得なかったのかもサリンジャーの行動も少しは理解出来た気もしました。
ストーリーの演出手法には難があったかも知れないですが、ニコラス・ホルトはじめケヴィン・スペイシーら各俳優陣が凄く好演していましたので、五つ星評価的には、高評価の四つ星評価の★★★★(80点)も相応しい作品かと思いました次第です。
また、この映画を観て、私も読み終えることなく積ん読状態にある『ライ麦畑でつかまえて』の本を改めて読んでみたく思いました。
生きるために書くような
感想がなぜか書けないでいた
うまくまとまるかわからないけれど、書いてみようと思う
子供の頃からの本好きにもかかわらず、かの有名な「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいない。
でも、映画を見て、この人が稀有な才能を持って生まれ、また感受性が強く、その感受性と繊細さがこの稀有な才能を際立たせ、だからきっとそういう作品なのだろうと、だから今でも世界中で翻訳され、多くの人に読まれているのだろうと思った。
こんな感受性の強い人が戦場に立ち、心を壊さずに戻ってくることは、きっと想像以上にキツいことだっただろう。
(実際、この頃はまだケアが不十分だったPTSDに苦しめられることになる。)
それゆえに、人を信じられなくなったり、人の集まる都会の暮らしに背を向けたりしたのではないかとすら思えた。
作家であったことは、成功した彼にそういった望まない苦悩ももたらしたかもしれないが、それがあったから、その繊細な内面を表現する方法としての作家としての才能が開花したから、彼は自身を保てたようにも見えた。
出版にこだわらずに書くことは、もちろん成功があって、金銭的な心配をしなくともすむ生活が成り立っていたからこそ、ではあるけれど、その選択肢が彼にあったことは幸いだったかもしれない。
改めて読みたい
昔父親の持っていた「ライ麦畑でつかまえて」を読みましたが、面白いともつまらないともあまりピンときませんでした。詳しい内容も覚えていない程で、この作品を観るからおさらいしたくらいです。この作品を観て驚いたのは、「ライ麦畑でつかまえて」を書いていたのが第2次世界大戦の戦場でだったということ、サリンジャー がユダヤ人強制収容所の解放に立ち会っていたことでした。
戦場での不条理、大人や社会の汚さ、死んでいく若者達や子供達を目の当たりにしていたからこそ、願望としてNYをひとりフラフラ言いたい放題、だけど夢は子供達を助けたいというキャラクターが作りだされたのでしょう。その後の隠遁生活を含めて、サリンジャーの傷の深さを垣間見れた気がします。この作品の鑑賞後改めて「ライ麦畑でつかまえて」を読んだら、きっと少しは若い時よりも理解ができると思います。
実直でまっとうな伝記映画
実直〜!普通の若者が大人になるまでを、そして作家になるとはなんぞやということと二本柱できちっとまとめている。
原題がRebel in the Ryeなので、直訳したよいタイトルだと思うけど、彼は反逆児というよりは先駆者に観えた。先駆者だ、と思ったのは先日サリンジャーに関する講演を聞いたからとは思うが。
今まで存在が見えていなかった、それはどこにも居場所がないと感じていたサリンジャー自身でもある「若者」を初めてアメリカで描いた作家だから。
彼の作品に対する姿勢は自分の主張を通してるだけで、文壇自体への反逆の意志は感じられない。実際はもっと破天荒な人物だったんだろうか?しかし私には至って普通の人間に見えた。ただし、自分の声を伝えたい気持ちがある、途轍もない「本物の」才能を持った人間。家族を思いやれないなどの問題点はあるが…
書く時はいつだって一人なことを、日本版のポスターがとても的確に伝えてて好き…と思ったんだが、本国では背後にスペイシーがばばーんと載ってるから、出せなかったのだろうと思われる。それでも日本版は美しくていいポスターだが。副題は少し説明過多だけど、決して間違ってはいない。
ニコラス・ホルトの自信がある時の表情や、戦争体験で痛手を負った状態まで、幅広い表情が見れる。そしてサラ・ポールソンも良かった。
全57件中、21~40件目を表示