劇場公開日 2019年1月25日

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「予備知識があれば面白いと思う」ナチス第三の男 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0予備知識があれば面白いと思う

2024年4月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

ハイドリヒ暗殺を中心に、暗殺される側ハイドリヒと暗殺を実行する側チェコ人青年の両面を描く。
多くのレビュアーさんたちが書かれているように、この尺でこのボリュームは明らかに詰め込みすぎであり、例えば、ハイドリヒが冷酷な野獣と化していく、なんて描写はないし、暗殺部隊の意気込みや苦悩なんかも薄い。
つまり本作だけ鑑賞した場合、若干薄味であるし、何よりストーリーがよく分からない。

しかし、過去にいくつか作られたハイドリヒ暗殺の映画を観ていて大まかな話の流れをわかっていれば、本作はかなり面白いと思う。

まず前半は、男の尻を叩かせたら天下一品ロザムンド・パイクとハイドリヒを演じたジェイソン・クラークが実に雰囲気があって良い。
ハイドリヒの真っ直ぐさと勤勉さが、彼を金髪の野獣とまで言われるほどに、冷酷で盲目な男に落としたのだろう。
そうなるように支えた妻が、行き過ぎてしまったハイドリヒと噛み合わなくなっていく様は面白かった。
カットバックを多用したミスリードを誘うような演出がすれ違いを実に上手く表現していたと思う。

後半は、チェコ人青年たちのロマンスと仲間たちが追い込まれていく様が描かれる。
愛国的夢と個人的夢の間で揺れる若者の苦悩や、皆が時計を見やる暗殺の瞬間は見応え十分だった。

そしてなにより、目を見張るショットの多さが印象的だ。
死にゆく者の視点で描かれるぼやけたシーン、荒れるハイドリヒのシーン、死を強烈に想起させる生を司るセックスシーン、水に沈む二人のシーン、それにラストシーン。
他にも挙げきれないほど良いショットがある。

映画はストーリーが第一というタイプの人には向かないだろうが、映像表現に重きを置いている私はとても刺さる作品だった。
ただちょっと小手先感があるのは否めないが、ストーリーを伝えるだけの画面を見ても見なくても変わらないようなつまらない作品よりは何倍も楽しめた。

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つとみ