パンとバスと2度目のハツコイ : インタビュー
深川麻衣、女優として見据える今後… 一途な初恋の思い出も明かす
女優・深川麻衣の銀幕デビュー作で、初主演となる「パンとバスと2度目のハツコイ」が、2月17日に封切られた。人気アイドルグループ「乃木坂46」を卒業してから、約1年8カ月。並々ならぬ覚悟を持ち、女優の道へと飛び込んだ深川が、いま何を思い、将来のことをどう考えているのかに迫った。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
第30回東京国際映画祭で特別招待作品として上映された今作は、「サッドティー」「知らない、ふたり」の今泉力哉監督の最新作。パン屋で働く“こじらせ女子”市井ふみ(深川)が、中学時代の初恋相手・湯浅たもつ(山下健二郎)と再会し、新たな恋に生きる姿を描いている。
撮影は昨年の初夏、都内近郊で行われた。現場に佇む姿は心持ち緊張気味の深川だったが、今泉監督の眼差(まなざ)しは、どこまでも穏やかだ。「監督の人柄が本当に穏やかで、それで現場があんなに温かかったのでしょうね」。映画初出演作での主演デビュー。プレッシャーは生半可なものではなかったようで、「(座長として)本当は盛り上げて引っ張っていくという気持ちが大事だと思うんです。けど、映画は今回が初めてで右も左も分からなかった。『こんなんで大丈夫かな?』と不安になったんですが、分からないことは素直に聞こうという気持ちでやっていましたね」と振り返る。
深川が演じたふみは、「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」という、独自の結婚観を持っている。深川自身は、これとは相反する結婚観を持っている。「私がふみと違うのは、付き合っている人と結婚したいということ。付き合う人の理想像と、結婚する人の理想像がバラバラじゃないんです。イコールがいい。だから、結婚したい人と付き合いたい。ふみは2年付き合っていた彼氏にプロポーズされて断っちゃうけど、私だったらそこまで迷わないと思いますね」
関東地方を大雪が襲った1月22日、東京・調布で開催された完成披露上映会で、深川は小学校1年生時の自身の初恋について言及している。「6年生まで同じ人が好きだったんです。小学2、3年生くらいの頃にウサギの消しゴムが3つ入ったセットを急にもらい、それがすごく嬉しくて。カギ付きの引き出しに入れて、たまに見ていました」。
実に初々しい、キラキラした思い出話なだけに、もう少し突っ込んで話を聞いてみた。小学生の頃というと、スポーツ万能タイプか秀才タイプがとにかくモテるものだが……。「確かに私が小学生の頃も足の速い子がすごくモテていましたね。私が好きになったのは、いつもニコニコしていて面白い子でした。その頃って自我が芽生えて、同性同士で遊んだりするものじゃないですか。でもその子はどちらとも仲が良くて、私もみんなと一緒によく遊んでいましたね」と笑みを浮かべる。
初恋の相手とは卒業以来、会ってはいないそうだが「友達から海外でカメラマンをしているって聞きました。地元の友達ってFacebookとかで繋がっているじゃないですか。それで写真も見せてもらいました。顔も小学生の頃のままで、全然変わっていないなあって思いました。再会しても映画のようにはならないと思いますけど(笑)、海外で頑張っている人なのでいつか会ってみたいとは思いますね」。
また、タイトルに絡めて、「バス」にも高校時代の思い出が詰まっているという。「(自宅のある)静岡の磐田から、浜松の高校に通っていたのですが、浜松駅からはバスだったんです。下校時には1時間に1本くらいしかバスがなくて、私は美術科だったので課題があるときは持ち帰りで、大きな絵を新聞紙でくるんで自宅で描かなくてはならなかった。その絵を抱えながらバス停まで猛ダッシュ。当時は、その行為を『ルパンする』って呼んでいました(笑)。いま思うと、青春だったなあって思いますね」。
誰にだってスタート地点はあるが、3月で27歳になる深川にとっては1日1日が掛け替えのないものになるはずだ。今年は「自分の好きなものを深く深く掘り下げてみたい」といい、「いろいろなことに興味はあるのですが、ひとつの分野に強いというか、知識が深いというのがなくて全てが浅い気がするんです」と胸中を吐露する。だからこそ、「日本舞踊を習ってみたいです。昔から時代劇に出たいと思っていて、所作も含めて学んで得られるものがたくさんあるじゃないですか。私はアイドルグループ出身ですが、いつか時代劇で踊り子の役で舞を披露するとか、そういう役をやってみたいんです」と思いをめぐらせる。
そしてまた、自らの未来予想図として憧れる女優がいる。「満島ひかりさんは惹かれるというか、表現力がとにかく素敵。“こうなりたい”というのとは違うかもしれませんけれど、満島さんが出演されている作品は追いかけたくなる。目が追いかけたくなるんですよね。どんな世界にでも溶け込める女優さんって素晴らしいですよね。私もそうなりたいんです」。瞬きを忘れるほど話に夢中になり、大きな瞳でこちらを見据える姿からは、パブリックイメージ以上の忍耐強さ、粘り強さを感じさせる。深川が今作を経て、どのような女優へと成長していくのか、今後も目を離すことができない。