「何気なく2人で歩くシーンが本当に美しい」マイ・プレシャス・リスト うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
何気なく2人で歩くシーンが本当に美しい
見終わった後の感想は「暖かい気持ちになれる」といったところ。基本的には好きな部類の映画で、部屋で流しっぱなしにしておいてもいい。空気のように受け入れてしまうほど、作り手の感性と、私の好みが一致したようで、わざわざ劇場まで足を運んだ甲斐がありました。
それでも、愛するが故の不満点は、いっぱいあります。特に、ストーリーの雑さには大きな不満が残りました。以下にあげておくと。
・天才少女が、コミュ障で、現実社会で生きていくのに四苦八苦。相談相手のセラピストからリストを渡され、それをクリアするのに大変な思いをする。これだけで、笑える要素満載のコメディになると勝手に期待していた分、笑いのなさにしぼんだ。ただしイギリス風のユーモアは随所に見受けられる。舞台はニューヨークなのに。特に、冒頭の彼女がニットに包んで運んでいた荷物をセラピストにプレゼントするくだりはインパクト大。てっきり、重たいカボチャか何かを持っているのかと思ったら……これはクスッと笑えました。
・はっきり言って天才少女という設定が生かされていない。引きこもりで、人と話が合わず、生きていくのに苦労している様子が、ほとんど描かれていない。公衆電話の受話器をセーターでゴシゴシ拭ってからでないと使えない。みたいな、日常のささいな仕草に神経質そうな性格は現れていたが、それも一貫性がない。もし潔癖症なら、食べ物をあんなに粗末に扱うのだろうか?いずれにせよ、ただの引っ込み思案の女性の成長物語にしか見えない。
・時系列の前後するエピソードが無造作に放り込まれていて、混乱する。大学時代の苦い不倫の経験をまるで今起きていることのように描写されていて、卒業しても、まだ社会人クラスのようなものに所属しているのだろうか、と勘違いしてしまう。
・原作は未読ながら、主人公のキャリーはモノローグを使って自分の意識や感情を表現していた。と、映画パンフレットに書いてある。映画では、一人暮らしの彼女が金魚を飼い、話しかけることでそのモノローグを採用している。ところが、映画の途中であっさり、金魚はいなくなる。結論としては、金魚はいなくてよかったんじゃなかろうか?
・エンディングはあれでいいと思う。とは、思うものの、もう少し山あり谷ありの展開が欲しかった。父親との和解や、過去との決別、身勝手な男を見過ごしていられない倫理観との割り切り。何となく気になる存在の男との進展。など、リストを塗りつぶしていく過程で彼女は大きく成長する。きっと、共感する女性は少なくないはずだ。でも、起きる事件がいちいち等身大過ぎて、まるで姪っ子か誰かの身の上話を見ているような矮小さ。映画ならではの飛躍が欲しかった。
・主役の女優さんに華がない。いわゆる「ちょうどいいブス」着ている服も男ものだったり、いちいち地味だ。リアルにこだわったにしても、映画だから、もう少し何とかならなかったかと思う。
・彼女が交際している男をいっぺんで嫌いになってしまう囁き。あえて、劇中では聞こえてこないが、女が冷めるひと言、いったい何を囁かれたのか、上手にセリフにしてほしかった。
最後に、キャリーがサイと街を歩く5分間の散歩。これは最高の美しいシーンになった。途中で無言になったり、ものすごくプライベートな会話に見えた。聞こえてくる街の音もリアルで、ラジオか何かで聞こえてくる音楽に合わせて、2人が躍る展開は胸に温かいものがこみ上げてきた。このシーンだけで、この映画が好きになってしまう。
なんだか、好き放題、文句ばっかり書いてしまったけど、基本的には好きな映画です。ただ、好みは分かれると思います。これを読んで逆に興味がわいた人には、きっとお気に入りの一本になると信じています。
2019.1.7