「【恋愛映画ではなく、唯一無二の存在との邂逅映画】」シェイプ・オブ・ウォーター 山のトンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
【恋愛映画ではなく、唯一無二の存在との邂逅映画】
◉好き嫌いが分かれる絶妙なラインの映画
好きか嫌いかで聞かれれば、若干半魚人に対して気持ち悪いと思いつつも映画自体は好きだと答えるだろう。特に音楽シーン(冒頭など)や水の演出、光の使い方、シーンの切り替えなど、一つ一つの細かい部分が洗練されていたように思う。
特に色使いに関しては、この映画のように黒とも白とも言えないグレーカラーの演出は、まるで人生における中年期の様相を表象しているかのようにも思える。中年期と捉えるとネガティブなイメージが浮かぶ。しかし、今作では独特の味わい深さから不快さなど微塵も感じず、ただただ映像に魅せられてしまった。最初から最後まで一気に見た映画。ビバ!中年期の美しさ!!
繰り返しになるが、改めて気持ち悪いか、気持ち悪くないかで言われたら若干気持ち悪いと思ってしまう映画だ。たびたび繰り返すのはやはり受け入れられない気持ち悪さがあるからだ。すまない。おそらく、自分が登場人物や主人公の女性に共感できていないことからくるのだと思う。
そもそも登場人物は若さという意味において美を体現した人物でもなければ、その片割れは人間ですらないわけで、現実世界からするとファンタジー作品といえる。そのため、同じ経験をすることは稀にあっても、ほとんどない人が大半だろう。稀というのは、人間ではなく、虫に恋するかもしれないし、物に恋をするかもしれないといった要素を含んでのことである。この共有しきれない経験の差によって共感に至らず、気持ち悪いと感じてしまっているのかもしれない。
◉感想
この物語は半魚人と中年の女性の恋愛という"異種族間"恋愛ストーリーのように思われるが、私はそうは思わない。というのも、半魚人と中年の女性には共通点があるからだ。それはお互いに話せないということ。この共通点において2人は異種族ではないと考える。私自身は声を使ったコミュニケーションをとることができるため、彼女の世界を真の意味で理解することは難しいのかもしれない。しかし、彼女自身が抱える葛藤のようなものはなんとなく想像することができる気がする。多くの人が声を使ったコミュニケーションを取る一方で、自分にはそれができない主人公。この映画の時代にはインターネットもSNSもないため、現代のように同じ共通点を持つ人と簡単につながることはできない。そのため、自分だけが世界から取り残されているかのように、まるで新海誠監督の映画に出てくる登場人物たちのように、自分と関わる人たちとの世界観に対して違和感を常に感じていたのだと推測される。
だからこそ、中年の女性は半魚人との声を介さないコミュニケーションにおいて、彼自身を理解しようとしたし、彼に理解されているように思えたのかもしれない。
昔の詩人は、「あなたを感じる。あなたの愛が見える。」という表現をしたようだが、まさに声ではなく、2人の間には通じ合う何かがあったのだろう。そして、それが恋愛のきっかけになったのかもしれない。しかし、これを恋愛ととるのかは鑑賞者に委ねられる。恋愛以外には「私たちは分離されてしまった片割れを求めている。」と聖書に書いてあるように、肉体の片割れを探す1人の人間(中年の女性)が、その片割れに出会った物語だと捉えることもできるからだ。
振り返れば、これは2022年2月から上映されている『CODA』とも共通している部分がある。『CODA』では、耳が聴こえる人と聴こえない人の世界観を深掘りし、それぞれが抱える葛藤にスポットライトを当てる。
耳が聴こえる人にとって感じる世界と、耳が聴こえない人にとって感じる世界は、地球という環境を共有していても、お互いが全く同じ世界を共有できているとは言い切れない。なぜなら、互いにコミュニケーションツールが異なるからである。人間は言語を発明することでコミュニケーションを容易にしてきた。
しかし、言語を介していても他者の心を読み取ることはできないし、同じ言語話者同士でも伝えないと伝わらないことがしばしば起こる。細かい点では、解釈の違いなどのずれは言葉にしなければ訂正が難しい。そういう意味では、そもそも言語における意思の疎通とは知ったかぶりのやり取りのような気もしてくる。
その一方で、声を使わない(言語を介さない)場合はどうだろう。最初から言葉のように曖昧なものに依存しないからこそ、意思疎通のために何か見えないものを通して相手を感じることができるかもしれない。
このように考えると、この物語は半魚人と中年女性の異種族恋愛ストーリーではなく、理解し合える片割れに出会い、共に生きていくストーリーといえるのではないだろうか。
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私、10年近く前から、キネマ旬報、kinenote、yahoo映画レビューなどに映画レビューを投稿しています。現在の目標は2回目のキネマ旬報掲載です。
こちらのサイトには本年2月に登録しました。
宜しくお願いします。
本作、私は、主人公の中年女性の表情から、”恋する女”を感じました。
また、タイトル”水の形”は人間でない異種生命体をも愛せる変幻自在の愛の形を意味する題名だと解釈しました。
山のトンネルさんのレビューを拝読しましたが、山のトンネルさんは私とは異なる視点で本作を見事に解釈されています。
映画の映像表現をどう解釈するかは観る人によって千差万別で良いと思います。そこが映画の醍醐味であり面白いところだと思います。
では、また共感作で交流させて下さい。
-以上-