「知ることを恐れない」シェイプ・オブ・ウォーター ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
知ることを恐れない
しばしば『人魚姫』の男女逆転版と紹介されている本作。だが、逆転しているのは男女間だけではない。逆転しているもう一つの要素はズバリ“言葉”だ。
人魚姫は人間の王子様に恋をし、足と引き換えに声を失うが、本作のヒロイン・イライザは半魚人を愛することで“言葉”を得る。言葉と言っても手話ではあるが、寡黙で控えめな彼女が物語が進むにつれて徐々にその発言力を増していく。とりわけ、悪役・ストリックランドに向けて中盤に発せられる言葉は、前半の彼女の振る舞いからは想像できないほど強い反発心をむき出しにする。
表向きはラブストーリーであるが、この作品の根底にあるのはコミュニケーションの大切だ。ストリックランドは半魚人に対してコミュニケーションを一切取ろうとしないのに対し、イライザは様々な手段で半魚人とコミュニケーションを交わそうとする。そして、その行為は彼女自身を解放し、やがて自らの存在を主張し、更には自分のあるべき姿を見出していくのである。
我々は知らない者を恐れることがある。その相手が何者なのか?どんな人なのか?と。この物語では、半魚人が一体何者なのかが問いかけられる。ストリックランドがラストに述べる言葉がその答を示しているのだとすれば、知ることを恐れなかったイライザと知ろうともしなかったストリックランドが迎えるが結末の違いは当然の結果と言える。
正直、アカデミー作品賞を勝ち獲るとは思っていなかったが、人種やセクシャル・マイノリティの差別や偏見と向き合うアメリカの今をファンタジーに置き換えた、デル・トロ監督にしか撮れない見事な一作である。