「美しい愛」シェイプ・オブ・ウォーター ジョーカーさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい愛
東京国際映画祭にて。
見終わった瞬間、震えが止まらなかった。帰りの電車の中でも震えがまだ続いていた。なんて美しい映画なんだろうか。
「理解し合うのに言葉はいらない」という最も基本的で重要なことをここまで大胆に、しかもディープに描き出されていた。予告でもある通り、半魚人は主人公が言葉を持たないことを全く気づかないのだ。コミュニケーションの一つのツールとして用いられるべき言葉が、いつのまにか言葉を用いて人を蔑んではいないか。
言葉だけでない。黒人というだけで、同性愛者というだけで人を侮辱してはいないか。そんな社会を皮肉る映画でもあった。
それに対し悪役として描かれる警備員を演じたマイケルシャノン。彼は半魚人を拷問しながら家庭を持ち幸せに暮らしている。そのことが戦時中の兵士を彷彿とさせる。また、彼もまた国家や情勢によって苦しめられている人の一人だということも強調きている。
差別は社会そのものによって引き起こされ、一人の力じゃどうしようもない。その無力感を伝えるとともにSF的に強大な力、人智を超えた絆を表現した。
オリジナル版のため、性的な描写も残虐な描写も容赦ない。しかし、だからこそ伝えるものがある。半魚人の真実を。
日本公開時にはR15となり、カットされてしまうのが心配。主人公の自慰シーンがかなり重要な役割を果たしているのに。
そして、この意味深なタイトル。ラストでは鳥肌必至。
レトロな音楽と雰囲気、時折主人公が見せる幸せそうな表情。そして半魚人。見ているだけで幸せが伝わってくる。主題が壮大であるのに難しすぎず素直に見ることができる、素直に見ている自分を見ることができるのだ。デルトロ監督が「愛と映画のための映画」とおっしゃるように、その通りの映画だった。