「完結させたこととアダム・ドライバーの演技以外に褒めるところがない」スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け ダダダッシーさんの映画レビュー(感想・評価)
完結させたこととアダム・ドライバーの演技以外に褒めるところがない
EP7はEP4のコピー、EP8は徹底的な逆張りなのでどうオチをつけるか気になって見に行ったが、正直期待外れだったとしか言いようがない。
過去作を彷彿とさせる展開の連続でシーンだけ見れば悪くない部分は多いのだが、全体的なストーリーやスター・ウォーズ全体の世界観で見た中での問題点が多すぎる。特にEP6をリスペクトしているように見せかけているが、諸々の要素からEP6の顔に盛大に泥を塗っているのが今作の特徴だ。
・フォースは善悪や生死の調和の象徴にもかかわらず最後は結局「正義が勝つ」で終了。これではSWではなく普通のアメコミだ。観客はSWを見に来たのであってアベンジャーズを見に来たわけではない。フォースのバランスと調和こそがSWの世界観の根底にあるはずなのだが、今作ではそういった要素はどこにあったのか?
・EP9で全て決着させるためには強大な悪役が必要だったとはいえ、パルパティーンは実は原形を保ってました、半死人ですが生きてましたという展開はEP6で我が身を擲ってルークを救いライトサイドに帰還したベイダーの犠牲を無にしている。せめてフォースと一体化した霊魂の状態なら良かったのだが…
・フォース・ライトニングでレジスタンスを攻撃するパルパティーンのシーンも疑問。そもそもフォースはそこまで強力な力ではないし、便利な魔法でもない。ディズニーの商業化路線のせいなのかウケ狙いなのかは不明だが、なんでもかんでも叶える便利な力ならEP1~6の苦労は何だったのか…
・山ほど出てきたデススター級の火力を持つスター・デストロイヤーも疑問。というか今後は星を破壊する宇宙戦艦がポンポン出てきてドンパチやるのか?ジェダイが存在する意義が失われてしまうのだが。
・全体的に戦闘に緊張感がなさすぎる。ジェダイの戦闘と言えばライトセーバーだが、結局素人のチャンバラごっこに毛が生えた程度だった。かといって艦隊戦もEP4や6、ローグ・ワンのような迫力はなく、ただ寡兵故にピンチになり、増援が来て盛り上がっただけ。しかもあっさりピンチになる。
・EP1~3ではライトサイドの隆盛と崩壊、EP4~6ではダークサイドの隆盛と崩壊を描いていたのだが、シークエル3部作は何がしたかったのかよく分からない。EP8では既存の概念を破壊するというカイロ・レンの目標も見えたのだが…
個人的に最も不満なのはEP6で死んだはずのパルパティーンをあっさり復活させたところだ。EP6でのアナキンの死は完全に無駄だったのか?この展開を手放しで褒めるのはベイダーとルークの関係を描いたオリジナル3部作を全否定することと同じだ。
作中で唯一褒められるのはアダム・ドライバーの演技。揺れ動くカイロ・レンの心情を見事に演じて見せた。だがそれだけでSWという傑作シリーズに泥を塗ったシークエルを評価する気にはなれない。
結局、EP4~6の名シーンの猿真似は出来ても、仏作って魂入れずというか、「なぜSWは0から固定ファンを獲得するほどの傑作になったのか?」という視点がすっぽり抜け落ちてしまった見せかけのハリボテ以上の仕上がりにはならなかった。
それどころか、EP7同様客が喜んで金を落としてくれるんだからそれでいいだろ?俺たちは金もうけのために映画を作ってるんだから世界観なんて知ったことじゃない!という作品になってしまった。世界観を単純化し、フォースの概念を陳腐化し、古参ファンに媚びまくった本作は興行的には成功だろうが、その内実はスター・ウォーズの皮を被った出来の悪い二次創作に過ぎない。外身が動いて客が来ればいい。あとはとりあえず過去作の人気キャラが動いているんだから喜ぶだろう、といったレベルの低い発想によって作られている本作は、まさにパルパティーンの亡霊のようなものだ。
折角ルーカスの手を離れたのにルーカスの劣化コピー以上の作品にはならなかったのは期待外れどころの騒ぎではない。そもそもEP4~6のような展開が見たいのであればそれらを改めてみればいいだけの話であり、何の意欲もなく「ただ金儲けのため」だけに作った映画に時間を割くくらいなら過去作を見た方がいい。はっきり言ってプリクエルの方がルーカスの考えるSW世界の動きが明らかな分、シークエルの100倍は面白い。
しょっちゅう敵が復活したりインフレして過去の努力や犠牲をなかったことにするマーベルのように、今後もディズニーの都合のいい集金装置としてルーカスの焼き直しを続けるのだろうか。ルーカスが『我が子を奴隷商人に売ってしまった』と嘆く気持ちがよくわかる。ルーカスの思い描いたSWは死んだ。仮にルーカスがシークエルを手掛けていればこんな気持ちにはならなかったのだろうか…本当に残念だ。
3部作を見た感想は「EP6で見るのをやめればよかった。ルーカスのSWこそが真のSWであり、シークエルなんてものはなかった」、これに尽きる。