「角川シネマ新宿にて観賞」戦狼 ウルフ・オブ・ウォー shallowwhiteさんの映画レビュー(感想・評価)
角川シネマ新宿にて観賞
無類に面白いアクション映画だ。
冒頭のワンカットに見える小船、タンカー、海中を行き来する海賊との戦いからして度肝を抜かれる。
『アトミック・ブロンド』も凄かったが、考え方の豪快さではこっちに軍配が上がる。
中盤の追跡戦、後半の戦車戦も余裕でハリウッドのハイバジェット作品と比肩できる出来だ。
アクションのコーディネイトはハリウッドの人らしく、意外に柔軟な姿勢も見える。
フランク・グリロ扮する悪役もキッチリ立てている。敵も脇まで強く個性的な点は非常に良い。(決着方法は不満が多いが)
だがしかし、この作品のプロパガンダ臭はどぎつい。見掛けは爽やかだが、この上なく傲慢かつ威圧的だ。
「アフリカでは中国人はアンタッチャブル」、「アフリカの少年も中国に渡れば幸せになれる」、「アメリカは姑息」など満面の笑みで、衒いも無く自国を褒めちぎる。なんという無自覚な傲慢さよ。
アフリカの人の描写もテキトーなもので、漫画みたいに軽薄なファンキー描写の母子くらいしか人物描写も無いのだ。
「中国・中国人・人民解放軍は絶対に正しい」のが大前提の世界観であり、劇中でも「中国・中国人が被害を受ければ許さん!」と暴れるわ、果てはミサイルを撃つわでリアルに威圧的。
「あの山岳地帯でも、あの南の海でもこの理屈で…」とか考えるとホラー映画の百倍は怖い。
この作品のプロパガンダについて、ウー・ジンやジャッキー・チェンはランボーを引き合いに出したそうだが、ジョン・ランボーとレン・フォン(主人公)の間には大きな隔たりがある。
レン・フォンは一匹狼だが、根底で国家や軍と繋がっている。国家や軍の関係者は皆人格的にも立派で、汚職の影も無く、全面的な信頼関係を築いている。はっきり、国家の忠誠無比のエージェントだ。
ジョン・ランボーは違う。国家も軍も彼を受け入れず、彼の闘いは母国からは常に孤独だ。信頼できる人はトラウトマン大佐独りであり、レン・フォンが信頼できない中国人が工場の小心な管理職独りなのと対極的だ。
このワールドボックスオフィスの実績に比して、国内の公開規模は極小なのも、その辺の危険な臭いからか。
だからって、ウー・ジンはもっと宣伝の前面に出すべきだろう。良しにつけ、悪しにつけ、無視してはいけない存在には違いない。
コメントありがとうございます。
現地の人々とは助けても助けられることは無いどこか上目線な絆で、ズルい工場の人も私利私欲で動く悪人ではなく、最後は生き残ったのでは…と記憶しています。
とは言え、読み返すとネガティヴな見方が過ぎた感想だったと思います。ご指摘ありがとうございます。
色々書きましたが、もっと多くの人が見て、良い意味でもたくさんの感想を読みたい作品です。
映画には、現地子供との絆や、原住民を助ける描写は沢山ありました。むしろ、中国人でも、考え方が間違っていれば、酷い目にあるぞ!というのは、この映画では伝えたかったのでは。(工場の中でズルイ中国人の設定があったと思います)