「苛烈な極寒の地で正義が揺れる」ウインド・リバー バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)
苛烈な極寒の地で正義が揺れる
テイラー・シェリダンは、リバタリアニズム系の作家だと思っていた。リバタリアニズムと「自分のことは自分で決める」という考え方で、国家権力からも可能な限り自由でいるべきだという思想。イーストウッドが描くヒーロー像や、『アウトロー』でトム・クルーズが演じたジャック・リーチャーをイメージするといいかと思う。
シェリダンが脚本を書いた『ボーダーライン』も『最後の追跡』も、法律に頼らない、もしくは頼れないから、自分自身の倫理観を基準に生きる人たちの映画だった。『ウインド・リバー』もまた、人間の作った法律など及ばない環境で正義を求める物語だ。
ただ、シェリダンが監督も兼ねた本作は、リバタリアニズムを感じる点は同じだが、人間の力がほとんど意味を成さない極寒の地が舞台であることによって、もはやリバタリアニズム的価値観は思想や信条というより「生きる手段」に近づいている。彼らを追い詰めるのは、人間や制度だけでなく苛酷な自然でもあるのだ。この映画が描く、屹立する現実の険しさに、ただ茫然としている。
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f(unction)さんのコメント
2018年8月16日
『最後の追跡』はリバタリアニズム的発想を是とするテキサス民を好意的に描いているようにも思えますが、『ボーダーライン』はリバタリアニズム的発想に基づく作戦に懐疑的な主人公の目線に立っており、主人公と作戦指揮者のどちらに共感するかは観客に委ねられているように思えます。