「地元の市場に着想」謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
地元の市場に着想
何かの情報で、ヒエロニムス・ボスというのは、一人の画家ではなく一種の工房のような集団で、それは左甚五郎のような制作過程を行なっていたということを耳にしたが、今作品はあくまでも一人の画家としての解説となっている。
奇しくも生で絵画を拝めたベルギー展でのボスの作品は誠奇妙奇天烈であり、しかしその愛すべきキャラクターはもしかしたらヨーロッパよりも日本の方が馴染みがあるのではないかと思える程際立っている作品だ(ボスの作品ではないが、ユニコーンと獅子のタペストリーも参考資料として撮されており、まさしくガンダムユニコーンでお馴染みである)。本作はそんな奇々怪々な作品の中でも代表作である『快楽の園』という大三連祭壇画にフューチャーして、各界の数々の第一人者がその鑑賞の感想、イマジネーション、解説、そして妄想と、多面体的にカメラの前で語るオムニバス的手法で綴られている。
或る人は『反面教師』、或る人は『謎と共にいること』、或る人は『鏡』、等とその出演者のインスピレーションが留まらないパワーをもている絵画であることは、誰でも承知であろう。その他にも沢山の言葉の語彙、ワードの組み合わせ方と、流石一流のクリエイター達が発する言葉は思慮深く、縦横無尽に言葉を操りながら解読していく。充分なほどの贅沢な絵画の読解を愉しむことができる。
それだけではなく、例えば背景画のみにCGを駆使してみせることで又違ったアプローチの解説も試みられていて益々多面体な印象を与えてくれる。今作品をコラージュしたサルバトール・ダリ等、以降の有名画家達にも多大な影響を及ぼすボスの今作品をここまできちんと紹介したドキュメントはかなり貴重で素晴らしい出来であった。本来ならば8Kデジタルで観るのが正しいのか、それとも映画作品としての上映が正統なのか悩むところだが、いずれにせよ今作品をシリーズ化するような流れになって欲しいと願うばかりだ。そうすることによって絵画芸術をもっと取り入れたいというモチベーションに駆られるのだから。