デトロイトのレビュー・感想・評価
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『正義』という思い込みで人はどこまで邪悪になれるのか
恐ろしい映画だった。
感動ではなく、恐ろしさと怒りで涙が出るほどに。
1967年夏のデトロイトで発生した、
米国史上最大級の暴動。そのさなかに起こった
『アルジェ・モーテル事件』の顛末を描いた本作。
その事件現場へ背中を蹴られてぶち込まれたような
迫真性。そして全編に充満する怒りと悲しみ。
個人的にはキャスリン・ビグロー監督が作品賞を
授賞した『ハート・ロッカー』を凌ぐ出来ではと思う。
開幕から映画を支配する息詰まるような緊張感は、
映画が進むに連れて薄れるどころかぎりぎりと
音を立てる弦のように張り詰め続け、
開始2時間にしてようやくピークを迎える。
“衝撃の40分”と宣伝された集団尋問シーンの
緊張と恐怖たるや、観ているこちらが壁に
頭を押し付けて目を背けていたくなるほど。
映画は145分という長尺だが、
体感時間はその半分、体感疲労はその倍だ。
...
警備員ディスミュークスを演じたジョン・ボイエガ。
理性的だが熱く、苦難に晒され続けた者のダメージも
表現できる彼が凄い。間違いなくデンゼル・ワシントン級の
カリスマ性を持つスターだ。『スターウォーズ』で抜擢
された彼が、ここまでの存在感を放つ役者になるとは!
幼稚にさえ見える残忍な警官役ウィル・ポールターも、
観客を本気で憎悪させるこんなリスキーな役を
演じ切った根性に天晴れ。彼がどす黒い闇を体現
したからこそ、この映画は断固たる光を放った。
そして“ザ・ドラマティックス”のボーカル・
ラリーを演じたアルジー・スミス。この方の名前は
全く知らなかったが、役者兼歌手の方だそうな。
無人の劇場で歌うシーンでも心を動かされたが、
彼の最後の登場シーンでの、怒りと悲しみがひしひしと
伝わる美しく切実な歌声には、思わず涙が溢れ出た。
...
アルジェ・モーテル事件で大きな役割を負ったのが
暴動鎮圧にあたるデトロイト市警の、一部の白人巡査達。
罵り、殴り、銃で脅し、大声で祈れと強要し、
尋問をゲームのように楽しみながら、時には
笑みすら浮かべる彼ら。彼らがその後に
行ったことはそれ以上に胸糞が悪い。
あんな行為のどこに正義があるのか?
正義を振りかざして人を虫けらのように
踏み潰すあの連中は、一体何様のつもりなのか?
“暴動鎮圧”“市民のため”という大義名分、そして
それを行使できる力。彼らは『正義』を行使
できる力を楽しんでいるようにすら見えた。
あの警官たちの卑劣さは吐き気を催すほどだが、
最も恐ろしいのはあの警官たちに「これは正義だ」と
信じ込ませているもの。それは特定の個人や組織
ではなく、何千年もの時間をかけて心の深い深い所
にまでびっしりと根付いてしまった差別意識だ。
そして、権力と優越感ほどに最悪の組合せは無い。
デトロイト市警の中にも良識のある人物はいたが、
少なくともあの3人の警官達にとって
『白人は優秀、黒人は下劣』という思考は、
文化レベルで叩き込まれた“当たり前”だった。
これは別に黒人差別に限った話ではない。
未だに黒人差別は根強いが、現米国大統領が反面教師的に
示しているよう、差別意識というものは
日常のありとあらゆるものに存在していて、
こちらも自分の中にそんな醜い正義が無いか
自問する必要があると感じさせられた。
...
ひとつだけ不満点を書くなら、
黒人差別の歴史と暴動の理由を端的にまとめた冒頭の
アニメーションはやや語調が強すぎるように思えた点。
だが、あの位の語気で語らねば黒人達が暴徒化する描写は
かえって彼らへの反感を煽る結果となったかもしれないので、
ここは痛し痒しか。
この映画は奇をてらった演出や説教じみた語りに頼ることなく
人種差別という社会的テーマを強く打ち出すことに成功している。
ひりつくようにリアルな描写と優れた演技、そして
サスペンス映画としてのずば抜けた完成度で以て
エモーショナルに観客へそれを訴え掛ける。
『正義』という思い込みによって、
人はどこまで邪悪になれるのか?
そんな恐怖をまざまざと見せつける、負の傑作。
<2018.01.27鑑賞>
思ったよりサラッとした仕上り
白人の女性監督、意味あり価値のあるフィルムです。
エンタメの中に、重厚なメッセージがあるビグロー作品が好きです。ちょっとドキュメンタリー方向!
ブルー・スチールやニア・ダーク最高‼️
同じ間違いを繰り返す愚かさ
いまでも人種差別が日常的に続くアメリカ。その傾向は、白人至上主義のトランプが大統領になって更に助長されつつある。
この映画は1967年のデトロイトが舞台だ。マルコムXが暗殺された後、マルティン・ルーサー・キングが黒人の人権運動をしている真っ最中である。黒人社会がそれなりの地位を獲得し、文化的にも花を咲かせつつある時期で、当時の白人社会は、黒人の社会的文化的な台頭を面白く思わない人々が多数を占めていた。それは当時だけでなく現在も同じなのかもしれない。
アメリカはそもそも先住民族を駆逐した移民の国で、建国から300年も経っていない若い国である。文化もテクノロジーも世界の最先端だが、人々の精神性が追いついていない。去年の大統領選挙の様子や差別主義者たちの街頭暴力報道を見てもわかるように、アメリカ人は同調圧力が強く、多様な価値観を認めない。
中でも人種差別は峻烈で、南北戦争で奴隷制度の存続を主張した南部地域は、いまだにKKKが白昼堂々と白人の優位性を元に意味不明の儀式を繰り広げている。バラク・オバマが大統領になるなど、全米ベースでは民主的になった現在でもこうなのだから、差別が激しかった1960年代は、考えるだけでも恐ろしい。そして差別する側に権力が加わると、もはや差別を通り越して弾圧となる。
この映画の警官たちは当時の世間というものの象徴的存在だ。個々の警官が悪者であるというよりも、世の中に蔓延する差別的な空気に感染したと考える方が正確である。日本でも、軍国主義の復活の目論む暗愚の宰相や、そこかしこに見られるヘイトスピーチなどのニュースを見ると、弾圧の時代の到来が近いように思われる。人間はどこまでも愚かで、同じ間違いを無限に繰り返す。
☆☆☆★★★ 簡単な感想で モーテル内で起こる、市警の暴力による緊...
☆☆☆★★★
簡単な感想で
モーテル内で起こる、市警の暴力による緊迫感の息苦しさが半端ない。
この辺りの演出こそは、キャサリン・ビグローの真骨頂と言えようか。
但し、過去に起こった真実の話で有るだけに、どうしても結末を歪めて描く事は出来ない。
その事が足枷となったのか?映画的なカタルシスを産むことは出来なくなってしまっているのも事実。
兎に角恐ろしい内容で有り、随所で「もしこの場所に自分が居たとしたならば?」…と、何度も自問自答してしまった。
2018年1月29日 イオンシネマ板橋/スクリーン4
動き出す歯車。圧倒的説得力。
やっと観られた、ビグロー新作。
相変わらずの徹底的なシリアス路線。拷問シーンでは至近距離でのカットと早割りで物凄い緊迫感。無駄な脚色を省き、俳優の息遣いや、壁へ当てた額に滲む汗、そしてしたたる血の質感までがこちらに伝わってくるようなリアルな演出。凄惨な現場を決してエンタメに走ることなく描き、スクリーンから放たれる圧倒的な説得力に終始たじろぐ。黒人俳優達の演技も素晴らしく、ジョン・ボイエガはSWとは打って変わってセリフ少なめの役柄をリアルに渋く熱演。白人警官役のウィル・ポールターも、個人的にナルニアのイメージが強かったがすっかり大人になっていて、狂気の白人警官役を素晴らしい熱量で演じきっていた。(個人的には、脇役のような感じでサラッと出演していたアンソニーマッキーが良かった。あとはゲームオブスローンズでも有名なハンナマリーも)
ビグローらしく社会派なメッセージを一身に纏った作品。表向きでは人種間の平等を謳いつつも、未だ根強い黒人差別が蔓延っていた1960年代のアメリカが舞台。白人社会の圧迫に反発した黒人による暴動の最中に、デトロイトのアルジェ・モーテルで起こった市警による一般人への殺害・暴行・拷問事件を描く。爽快感なぞ一切ない、むしろ観るものの心へ大きな影を落としてくるような物語。結末でわかりやすく直接的な答えを提示するタイプの映画ではない。当事者の証言を元に綿密に構築されたという事実とこの映画の存在そのものが、現代人に対する一種の問いや警鐘としての役割を果たし、「デトロイト」という作品に魂と意義を与えている。巨大で不条理なこの社会の中で、弱者と強者の間に壁を築くことの危うさ。動き出してしまった歯車は決して元に戻る事はなく、小さな暴力がやがて巨大な狂気と化し、市民のタガを外し、罪なき者の命が奪われる。少数派差別撤廃の風が吹き始めつつも一方でアメリカでは民衆の手によって素人の保守派政権が誕生した21世紀。そんな今だからこそ、歯車が回される前に、作る価値のある映画だったと思う。
すごい...
これは、現実感のない遠い話しではなく、関係者も生きているほんのちょっと前の話しというところが恐ろしい..
形は違うかもしれないけど、今も不当な権力に涙を流して生きている人がたくさんいるのだろうと現実を見せつけてくれる作品です。映画になって良かったです。裁判ばかりが正しいなんてうそうそ。平凡な毎日に感謝しつつ、「生きる」や「正義」に足を止める時間も大切だと感じさせてくれる作品です。
2018年度ベストムービー!
デトロイト出身の名門ソウルヴォーカル・グループ、"ドラマティックス"のメジャー・デビューの裏側にこんなストーリーがあったなんて!ゴスペルの世界に帰って行ったラリー・リードの熱唱は、涙無くしては聞けない!(涙)
それと、劇中、ディスミュークスが若者に言った「今夜を生き残れ!」という言葉があまりにも生々しく、耳を離れない。
結局はどう生きるかが大事なのです
よくあると言えばよくある差別から起きた実際の事件が元になっている。黒人達はあんな差別の中で生きてきたのかと思うとそれだけですごい人達だと思う。
事件の被害者の中にデトロイトの黒人歌手グループのメンバーがいた。その中の1人が殺される。本当に不当な死だ。
このメンバーのメインボーカルは結局売れているこのグループに戻らなかった。歌を聴くのが、お金を出すのが白人だからだ。そして協会の聖歌隊に入る。彼の賛美歌が最後に心に響く。思わず涙が流れた。
差別はなくならないかもしれないけれど、その中で自分がどう生きるか、それは自分で決められる。かれは彼の信念に従って、賛美歌を歌い続けるのだろう。
2018-9
あーー胸クソ悪い!!
でも真実だからスカッとジャパンみたいにならない。
あの時代だから、ではない。
今の時代だって、こないだのW杯でもあったし、日本人だってネットでひどいこと言うし。
大小あれ、差別は存在する。
何度も、スクリーンのウィルさんに殴りにいこうかと思えるくらい、警官役のウィルさんがすごいはまってた。
まるで自分がその現場にいるかのような緊迫感与えるカメラワーク。
こちらにも汗が伝わってくる。
上映時間の長さを忘れるくらい没頭して、終わったあとはぐったり疲れる力作でした。
これを見たあとにパディントン見たら、疲れた分を笑顔にさせてくれるかもしれません。
逆はあかん。
あの有名なO・J・シンプソン事件のような捜査と裁判と判決と
TOHOシネマズ西宮OSで映画「デトロイト」(Detroit)を見た。
監督はジェームズ・キャメロン監督の前妻・キャスリン・ビグロー。
キャストはスター・ウォーズシリーズのジョン・ボヤーガ他。
黒人の不満が爆発して起こった1967年のデトロイト暴動と、その暴動の最中に殺人にまで発展した白人警官3人による黒人たちへの不当な尋問の様子をリアリティを追求して実話を基にして撮られた映画。
暴動を起こし暴れまわる黒人たちも責められる面はあるのだろうが、この映画で描かれた白人警察官の差別意識、考え方やり方は限度を超えていた。
後半の事件に対しての捜査、裁判にも一部の白人たちのあきれてしまうような言動や事実がある。
米国の裁判においては、O・J・シンプソン事件※という刑事と民事で矛盾する判決が出たことが有名な事例があるが、この事件でも観客は首を傾げてしまうような判決を目にしてしまう。
上映時間は142分。
けっこう長いが長さを感じさせない。
見応えがあった。
満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。
※O・J・シンプソン事件はO・J・シンプソンが殺人事件で逮捕されて裁判になった、アメリカで起きた事件。
被疑者・被告人となったシンプソンが元プロフットボール選手および俳優として有名であっただけに、裁判の行方を巡って全米のみならず世界中の注目を集めた。刑事裁判では殺人を否定する無罪判決となり
民事裁判では殺人を認定する判決が下った。
モータウンの華やかさの影にて
覚悟していった数倍は重かった…。
監督さすがです!と言った感じで147分間、デトロイトのとある一角、とある夜に放り込まれました。
苦しくて重くて色んなものがない交ぜになるのだけれど、実は世界中に普遍的にある問題でもあり、どんなに近づいても破れない壁を見せられてる様でもあり…。そんな世界を時代のモータウンミュージックが彩るものだから、むしろ切なさは振り切れていくだけで…。
それでも、体験して良かった!と言う爽快感とは違う充足は感じていたりするわけです。
この監督、良い意味でドライなんですよねぇ。いつもいつもやられます。
あの当時アメリカに正義はなかった
今はどこにもないか。
デトロイト観てきました!
キャスリン・ビグローの最新作と聞いてはいたものの、何度目かの黒人差別もの映画ということで若干飽き飽きして観てきました。
モーテルの緊張感は噂にたがわぬ名シーンで、ハラハラという言葉がこれほど合うとは!
そして、この証言がリアルだとしたらなんとおぞましく醜い差別なのか。
1960年代でまだこんな差別があったなんて、今の世の中を生きる若者のわたしには信じられません。
そして、白人の警官がムカついてなりません。
しかし、きっとそれはあの白人警官達だけが悪かったのではないということが分かっているからこそ、余計に腹が立ちます。
あの時代、差別が普通だったのでしょうから。
正義とは何か、あの時代アメリカに正義があったことを祈ります。
黒人が置かれている状況をどう見るか
「ムーンライト」「ドリーム」「ゲットアウト」…と昨年来、黒人が主人公の映画を何本か見てきた。
本作も、その意味で興味を持って封切り間もなくの新宿の映画館に足を運んだ。
日曜の2回目の上映だからか、満員札止め。有名スターが出ている娯楽作でもないのに…。本来なら、シャンテシネあたりでひっそり上映するような映画だろうに。
そもそも、1967年のデトロイト暴動など知らなかったが、50年前のアメリカ…いや、21世紀のアメリカも程度の差はあっても、白人の黒人に向ける目、意識は同じだろう。
で、見終わって、監督が白人女性、「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビクローであるのを知った。
監督はおそらく白人だろうとは思っていたが、案の定である。
白人警官のねじ曲がった職務姿勢はよく描かれていたし、後半で傷ついた黒人を助ける白人警官の姿もしっかり描いていた。
うまくバランスを取って、白人VS黒人の図式を描いてはいる。
ただ、事実をうまくそしゃくし、50年後の現代に形にしたのは立派な仕事かもしれないが、人間が描かれてないのだ。
主人公の1人である黒人警備員の内面とか…。
敢えて描かなかった、ヒューマンストリーにしたくなかった、ということでもあるんだろうが、映画的にはそこに「感動」させるものがほしかった。
それゆえに、★2つ。特段現代アメリカ史に興味がある人以外はわざわざ見るほどのものではないね。
白人の警官より、その周りが怖かった
メインの警官より、目を瞑る他州の警官や、仲間、黒人の群衆、様々な登場人物がいろいろ怖かった。
この監督もので、1番ハラハラドキドキした。戦争より身近な現実だからかな。
フィン...
歴史の教科書にも載っていた気がする「デトロイト暴動」は多分、歴史の授業でも習った思い出があるが、自分が生まれた後に起きた出来事でもあるということがショッキングである。そして多分、今でもあるのだろう。黒人の警備員(ジョン・ボイエガ)があまりにSWの印象が強すぎて、フィンにしか見えなかった。
圧
画面演出に暗喩的表現が殆ど無く、非常に現実的である為、評価が難しい。
また、ハンディカメラで舐める様に映し続ける為、キャラクターと受け手の距離が近く、良くも悪くもデトロイトの長い夜を共に過ごした心地になり、結果が全てでは無い事を強制的に目撃させられる。
砂糖の甘みなど無い。
その分、個々の音響や役者の表情に満遍なく見せ所を作ってあり、それに救われた作品である様に思う。
ウィル・ポールターに拍手を。
物語が進むにつれ、自分の理解の遥か外である事を痛感した。
幕引きの直前まで3人くらいにツッコミをいれていたのだが、ラストカットでこれでいいやと思い直した。
深く考えると、また明けない夜がやってきそうで。
人間関係の希薄さというものには、どうしてもネガティブなイメージが付き纏うが、何がなんでも解決しようと、もがく程に糸は絡まる。
まずは自分と他者との間に線を引こう。
その上で握手の機会を伺えば良い。
何年でも何億年でも。
全201件中、141~160件目を表示