劇場公開日 2018年4月21日

リズと青い鳥 : 映画評論・批評

2018年4月17日更新

2018年4月21日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

手を強く握るだけではなく、その手を解くことの大切さ。細やかな演出が見事

働き始めてから少しして、取材でとある高校を訪れた時のことをたまに思い出す。懐かしさと共に、学生生活というものは手厚く守られた温室のような環境だったことに気付かされた。しかし、それゆえに感じる窮屈さや不安もあったのだ。「リズと青い鳥」も同じく、温室の中の美しい花々が、その限られた空間と時間の中で部活、友人、進路で悩み日々揺れ動いている。

集団生活や人との交流が得意ではない主人公の一人みぞれにとって、学校は心地よい空間とはいえなさそうだ。一方、もう一人の主人公であり、みぞれが唯一の拠り所にしている友人、希美は明るく天真爛漫で青春を謳歌している。そんな対照的な二人を描き分ける、日常の動作、歩調、仕草のアニメーションに目を奪われる。セリフのないシーンでも関係性と心の機微が伝わる静かで細やかな演出が見事だ。

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吹奏楽部のコンクールや卒業後の進路など、節目を迎える準備の過程で、みぞれと希美が抱えるそれぞれの葛藤や悩みが浮き彫りになり、二人の関係性が揺らぎはじめる。そんな二人の想いを映すように、タイトルにもなっている「リズと青い鳥」という童話と演奏曲が象徴的に描かれ、こんがらがった気持ちがどのように紐解かれるのか、最後までハラハラさせられる。

すべての価値観を希美に委ねているみぞれの姿勢は頑なで、友情というより依存のような一面も見える。それほどに不器用でまっすぐな衝動は、誰もが若さゆえの過ちを振り返ってしまい胸が痛くなるだろう。その重みを、受け止めるでも交わすでもなく朗らかにやりすごす希美が少し怖かった。その小さな違和感は、大人になった私達が他人に、そして自分にも感じる、見逃してはいけない大切なひっかかりなのかもしれない。

絆や繋がりの大切さを強調されることが多い今、手を強く握ることだけではなく、その手を解くことの大切さについて描かれていることが、なんだか嬉しかった。部屋の隅っこに小さな反射光をみつけた喜びのような、繊細な温かさ。それでいてあっという間に伸びてゆく夏草のような芯の強さを見せる少女たちに驚かされる、空が眩しい季節にぴったりな作品だ。

衿沢世衣子

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