「相当に良かったのに、一抹の物足りなさ」検察側の罪人 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
相当に良かったのに、一抹の物足りなさ
二宮和也は、犯人を追い込む検察官を、素晴らしい演技で表現していた。普段の静的状態と尋問時の激怒のギャップの大きさが、迫力を生む源泉なのだろうか。吉高百合子さんの事務官がそれを見て驚愕していたのに、共感するところ大であった。彼女も抑えた演技ながら、とても魅惑的で、二人ができてしまうのも納得できた。そして、何よりも松重豊の闇世界ブローカーは、その複雑さが魅力的なキャラクターで、お見事な造形。木村拓也と絡むシーンでの音楽やロケーション、美術も素晴らしい。
従来と異なり、抑え気味でリアリティに重きを置いたと思われる木村拓哉の演技も、悪くない様に思えた。犯人殺人に向けてのシーンなど演出も、悪くない。しかし、映画全体としては、かなり物足りなさを感じてしまった。それは何故だろうか?
まず、木村演ずる検察官が殺しに至るまでの思い入れが、共感できなかった。殺された娘を妹の様に可愛がっていたという会話はあったが、映像で十分に表現しきれていない様に思われる。また、インパール作戦をブローカーとの共通点として、エピソード的に使ったのは一つのアイデアであるが、映画全体として十分意味をなしてないのは残念。暴走する検察の基本的要因とインパール作戦命じた大本営には、共通要因があるはずだけど。
そして、やはり最大の失敗は、終わり方の脚本の様に思える。殺人が露見していくところが1番面白い原作をわざわざ変えて、木村検察官がどうなるかを、観客に全く知らしめずに、二宮の叫び声で終わらせるのは、エンタテイメントとして、安易な選択と思えてしまった。せめて、殺人露見を映像で示唆するぐらいは、して欲しかったところ。原田眞人監督の大ファンだけに、今後は脚本は複数で練り上げた方が良いと思ってしまった。