「彼女には選択肢が無い」テルマ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女には選択肢が無い
テルマとアンニャの恋模様を中心に、恐ろしい能力と過去をホラーテイストで描いた作品。
テルマが自分自身を受け入れ欲望を認め、抑圧から解放されるまで。
蛇が喉に入ってくるカットがとても好き。
映像は綺麗だけど冗長に感じることも多く、幻覚的なシーンと現実を交互に見せられるので途中まで正直退屈だった。ホラーと謳っているけどそうでもないし。
また若くて綺麗な女の子が何かに目覚めてしまうのか…と若干辟易としていた。
しかしラストの展開で急に恐ろしくなる。
強く想う人が消えてしまうのは今まで自分の能力に自覚が無く、混乱半分に力が暴走してしまっていたからだと思う。
封じ込まれていた過去の記憶を取り戻し、力を思うように使えるようになったらそれはもうテルマの思うがままに出来るということで。
無事にアンニャと再会できて幸せにキスを交わして歩いて行くけれど、そりゃそうだ、テルマがそれを望んでいるのだから。
今後アンニャと取り返しのつかない喧嘩をした時にまた力が暴走するのではと思ったけど、そもそもテルマが強く願えば二人の仲に亀裂が入ることもないんだなと。
もう別れたいとテルマが思うようになった時は別として。
「彼女には選択肢が無い」という父トロイの言葉が身に染みる。
何でもかんでも思い通りになるわけでもない気はするけど、テルマにとっての愛に溢れた未来は相手や周りの本当の気持ちは無視されてしまうんだなと思うとゾッとする。
誰もそのことに気付かずに生きていくんだろうけど。
そして自分を抑え込んできた父親のことは消滅させたままにしているということは、夫がいなくても一人で生きていけるように母親の脚を治したんだと思った。車椅子生活ではあまりにも不自由だから。
それ以上に母への愛情があるようには見えなかった。
決して派手なホラーではないけれど、「意味が分かると怖い話」的なジワジワ来るものがあった。
あくまでも個人的な解釈ではあるけれど。
一見ハッピーエンドに見えるものが視点を少し変えるとメリーバッドエンド的になる作品はしばらく頭から離れなくて好き。
行き交う人々から徐々に一人にズームインしていく最初と対称的なラストカットが印象的。