「市民と共にあろうとするオペラ座」新世紀、パリ・オペラ座 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
市民と共にあろうとするオペラ座
しかし、よくまあこれだけ次から次から問題が発生するものだ!
あれだけ大きな組織ならば それも仕方のないことかもしれないが、総裁のステファン・リスナーがオペラ座の前進とその企画の実現に渾身の思いをかけて奮闘をしているあの様、あの矜持、素晴らしかった。
世界的な不況で、僕らも観劇やコンサートにお金をかけるのは難しい時代だ。 若者たちの芸術離れも、かの地でも同様に加速しているのだろう。
オペラ座の今後にテコ入れせんとするこの映画のコンセプトは ―
「特権階級だけのものではない、庶民の“小屋”としての2つのホール=ガルニエとバスチーユを守る」ということなのだと思う。
300フランを払うきらびやかな客層の姿は、カメラは映さないようにしていた。
お金持のバレエ学校もこの際カットだ。
むしろフォーカスさせるのは地味なプログラムの数々、そして我々にも身近なエピソード。
・アフリカ系移民の子たちへのヴァイオリン教室と発表会、
・ロシアの田舎から出て来た若者に将来性を見出して、初舞台までをバックアップするドキュメント、
・チケットの値下げのための苦心惨憺の経営者会議、
・成功者だけではない。「荷が重い」と直前に逃げ出すバレエの芸術監督や「歌えない」とドタキャンしてしまう歌手とのやり取り、
そして
・リストラに抵抗し待遇改善を求める職員たちのストライキ。
これらは、オペラ座が王族たちのものではなく“フランス市民の生活と乖離していないこと”をなんとか伝えたいとする構成だったと思う。
ゆえに「ラ・マルセイエーズ」が、新ホール「バスチーユ」でのガラ・コンサートの開演前にすべてのスタッフ(=総裁、監督、出演者、調整室、警備員、調理師たちとオーケストラ団員、そして客席の全員の起立・黙祷のあとに歌われていた。
象徴的だ。
悲喜こもごもありつつ更に上を目指して「舞台裏」まで明かしてくれたオペラ座には 胸キュンである。
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パリのオペラ座ガルニエ宮は、メトロの駅の出口から外観を見ただけで素通りしてしまった僕。
メトロの階段のアール・ヌーヴォー調の手すりにもたれて若いアベックが長いキスをしていたっけ、
せっかく見学コースもあるのだからあの天蓋のシャガールを仰いでくるのだったなぁー
あと大好きなバリトンのブリン・ターフェルの「ファウスト」の練習風景を映画で見られたのは大きな収穫。
イベント企画や組織運営に携わった経験のある方ならば、この記録映画の面白さにのめり込むこと請け合います。