「ちょっと残念な感想」コレット 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと残念な感想
田舎の少女の成長物語はオルコットの「若草物語」やモンゴメリの「赤毛のアン」などがあり、世の共感を得てベストセラーになっている。サリンジャーの「The Catcher in the Rye」と同じで、自分と似たような感性の主人公が生き生きと描かれる様子を読めば即ち自分自身が肯定されている気がするのだ。コレットの「クロディーヌ」も同様であっただろうと思う。
本作品ではそういう牧歌的な小説とは乖離した、作者の自由奔放な生き様が描かれる。逆に言えば、パリでの都会生活が故に長閑な田舎暮らしを表現できたのかもしれない。それほど都会の生活は損得勘定に塗れ欺瞞に満ちたものだったのだ。
そして「クロディーヌ」の好評で自信をつけた彼女は封建的な価値観と虚栄の社会に反旗を翻す。それは「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラの生き方にも似て、退屈な男性社会に風穴をあけるものだった。
終始、挑戦的で挑発的な彼女の生き方が描かれるが、自分の欲望に忠実な振る舞いばかりを見せられると、最後には主人公が少し嫌いになってしまった。それは多分優しさの欠如であり、葛藤の欠如であると思う。コレットの魂が見えてこないのだ。どうしてこうなってしまったのか。
作中でコレットが書く文章はフランス語である。しかし映画はすべて英語だ。配偶者の浮気には寛容な筈のフランス人が嫉妬を露わにするシーンに首を傾げてしまった。
ウエストモアランド監督は「アリスのままで」ではジュリアン・ムーアの豊かな表情を通じて若年性アルツハイマー病の苦悩を見せてくれたが、本作品では結局フランス人女流作家の我儘ぶりを見せられただけだ。
コレットは仮にも物書きである。もう少し複雑で奥行きのある精神の持ち主だったのではないかと思う。ちょっと残念な感想になってしまった。