喜望峰の風に乗せて : 映画評論・批評

喜望峰の風に乗せて

劇場公開日 2019年1月11日
2019年1月15日更新 2019年1月11日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

ある冒険家の実話だが、シチュエーションスリラー並みの追い込まれ感に戦慄

1969年7月にアポロ11号でニール・アームストロングが人類初の月面着陸を達成したのと同じ頃、英国ではあるアマチュア冒険家の壮大な挑戦が耳目を集めた。過酷なヨットレースに挑んだドナルド・クロウハーストの実話に基づくドラマが、本作「喜望峰の風に乗せて」だ。

このレースの出来事は、欧米で半世紀にわたり映像化や舞台化が繰り返されてきたが、日本ではあまり知られていない。したがって、邦題の爽快さと〈海洋冒険ドラマ〉の売り文句を鵜呑みにして観ると、まず間違いなく「えっ、こんな話なの!?」と驚くはずだ。

冒険ブームに沸く1968年の英国で、世界一周ヨットレース「ゴールデン・グローブ」の開催が決まる。9カ月以上たった一人で航海し、補給や修理で寄港もできない厳しい競争だ。名だたる熟練ヨットマンたちに混じり、船舶用測定器を発明した起業家でアマチュアセーラーのクロウハーストも参加を表明。優勝すれば不振続きの自社の宣伝になり、愛する家族に賞金と名誉を贈れるとの思いからだった。

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英国王のスピーチ」でアカデミー賞主演男優賞の名優コリン・ファースがクロウハーストを演じ、巧みな話術と人懐こい笑顔で大勢の支援者を巻き込む過程を的確に表現していく。最初に自分で起こした“風”が、みるみるうちに大風になり、あらがえない風圧に押し出されるように準備不足のまま船出する男の葛藤と焦燥が、ヒリヒリと痛いほど伝わってくる。

自ら設計したヨットは未完成で、洋上でトラブル続き。悪天候、船酔い、そして永遠にも思える孤独。「博士と彼女のセオリー」のジェームズ・マーシュ監督が描く航海のシークエンスは、まるで登場人物が逃げ場のないサスペンスフルな状況に置かれるシチュエーションスリラーのように、クロウハーストの精神を追い込んでいく。

港で待つ息子に「パパは月面着陸と同じ日に戻る」と言わせることで、マーシュ監督はクロウハーストとアームストロングそれぞれの挑戦の対比を示唆している。人類の果敢な冒険の〈光と影〉とも言えそうだが、半世紀を経て両者を描く映画が近い時期に公開されるのも奇縁だろうか(アームストロングの伝記映画「ファースト・マン」は2月公開)。なお本作は、昨年2月に死去したヨハン・ヨハンソンが最後に映画音楽を書いた3作品のうちの1本でもある。エンディングで流れる静かなピアノ曲が、失われた命への鎮魂歌のように優しく響く。

高森郁哉

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