「生と死とそれらをつなぐ人」ルージュの手紙 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
生と死とそれらをつなぐ人
カトリーヌ・ドヌーヴとカトリーヌ・フロという、それぞれの世代を代表するようなフランスの大女優の共演とあらば、勝手に期待値は高まるし、ましてや血の繋がらない母娘役だなんて聞いたら、バチバチと演技合戦を繰り広げてくれるんじゃないか?なんて思っていたりしたのだけれど、その点、案外あっさりとしたつくり。それもそのはず、という感じで原題を「Sege Femme(助産婦)」と冠している通り、カトリーヌ・フロ演じるとあるベテラン助産婦を中心に置き、彼女を通じて生まれ出づることと死に逝くことを見つめた、生命の物語だったからだ。まさか義母と娘がバチバチやる映画なんかであるはずがなかったというわけだ。
ドヌーヴはその「死に逝くもの」の象徴として君臨する。フロは助産婦として生まれ来る命を抱きとめるる日々を送っている。まだ医学生の息子には子供が出来、またその息子が大学を辞めて母と同じ助産師になりたいと言い出す。「生」と「死」と「それをつなぐ人」という実に分かりやすい構図の3人ではあるけれど、それを単純化して記号化するのではなく、彼らの存在を象徴やメタファーとして命の賛歌、あるいは生と死の賛歌として作品にできるあたり、やっぱりフランスの知性(とユーモア)って好きだなぁといつも思う。
ただ、やっぱり彼女らほどの女優を使ってなら、日本版の予告編が煽っていたような「遺恨を残した義母娘の心の対決」みたいな映画で二人の競演を見たかったような気もしてくるのは、ファンの我儘というものだろうか。ふたりの共演シーンも割とさっぱりしていて、ちょっと物足らないような気がしてしまったのも、二人のファンであるが故の実感だった。