「非日常的なバイオレンスと、最後にすべての悪を挫くカタルシスはまさに東映任侠映画や実録シリーズの醍醐味をきちんと継承していますね。」孤狼の血 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
非日常的なバイオレンスと、最後にすべての悪を挫くカタルシスはまさに東映任侠映画や実録シリーズの醍醐味をきちんと継承していますね。
惜しまれつつ25年7月27日に閉館する「丸の内TOEI」さんにて「さよなら丸の内TOEI」プロジェクトがスタート。
同館ゆかりの名作80作品以上の特集上映中。
本日は閉館プロジェクトの一環として『孤狼の血』(2018)を上映。
上映後にスペシャルゲスト、役所広司氏、白石和彌監督の舞台あいさつも開催。
『孤狼の血』(2018年/125分)
初公開以来7年ぶりの劇場鑑賞。
東映のお家芸『仁義なき戦い』などの実録シリーズ、特に本作は『県警対組織暴力』(1975)の流れを色濃く反映していますね。
舞台は広島県内の架空の町(呉原市)。
実際に呉市内でロケをしており、現場の空気感がスクリーン越しに伝わります。
時代設定も実録シリーズのような激動の戦後~高度経済成長期ではなく、バブル経済に日本中が狂乱、まだ闇社会の人間が街中を闊歩していた昭和最後の63年(1988年)は、もう35年近く前になりますが、観客にとっては、自分たちも生きていた時代、身近に感じられる良い設定ですね。
冒頭の養豚場での呉原金融経理係(演:駿河太郎氏)のリンチシーンから目を覆いたくなるほど陰惨で壮絶。制作陣の覚悟と気合がファーストカットからヒシヒシ感じます。
反社会的勢力から善良な市民を守るため、敢えてアウトローとなって彼らの懐に飛び込み、諸悪の根源でもある警察内部の不正や汚職にも目を光らせる主人公・大上章吾(演:役所広司氏)、彼の不法な捜査に反発を覚えつつも、次第に彼に傾倒する新人・日岡秀一(演:松坂桃李氏)の人物設定が実に良いですね。
非日常的なバイオレンスと、最後にすべての悪を挫くカタルシスはまさに東映任侠映画や実録シリーズの醍醐味をきちんと継承していますね。
決して反社会的勢力を美化、賛美はしていませんが、昨今コンプライアンスが厳しいなか、なかなかアウトローを主役にした作品は撮りづらいと思いますが、引き続き続編の公開を待っております。