「闘う企業戦士たちが起こす奇跡と、讃歌。熱き池井戸ヒューマン・エンターテイメントにしびれろ!」空飛ぶタイヤ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
闘う企業戦士たちが起こす奇跡と、讃歌。熱き池井戸ヒューマン・エンターテイメントにしびれろ!
TVドラマでは度々映像化され好評を博している池井戸潤作品だが、意外にも映画化は本作が初めて。
正直池井戸作品の映像化は記録的高視聴率をマークした『半沢直樹』しか見てないが(久々にドハマったTVドラマ)、それでも多少はその面白さを知ってるつもり。『陸王』も今大評判の『下町ロケット』も面白そう。
なので、本作も非常に楽しみにしていた。
もし地元の映画館で上映してたら、何の躊躇も無く観に行ってた事だろう。
池井戸作品で一貫して描かれるのは、中小企業戦士の闘い。
企業の構図とか、殊に本作の場合自動車業界の専門的な用語も飛び交い、全く小難しくないとは言えないが、それも分かり易く描写。
とにかく、話が本当に面白い!
片時も飽きず、グイグイ引き込まれた!
トラックの脱輪事故が起き、子連れの若い母親が命を落とした。
事故の原因は整備不良とされ、運送会社社長・赤松は世間からバッシングを浴びる…。
もし実際にこのような事故が起きたら、我々は、報じられたニュースをそのまま信用するだろう。
全て悪いのはこの運送会社。人殺しの会社…。
ネット上では悪口や悪質な書き込みが生き甲斐の輩の誹謗中傷の超大型台風…。
でも…
本当に否があるのはこの運送会社なのか…?
本当に原因は整備不良なのか…?
赤松運送では、整備には何の落ち度も無い。寧ろ、チェックは完璧以上。
では、何故…?
事故原因に納得いかない赤松は、独自に調査を始める。
すると、以前にも他県で似た事故が起きていた事を突き止める。
しかも、製造元は同じ大手自動車メーカー、ホープ自動車。
整備不良という事故原因を下したのもこの大会社。
赤松はホープ自動車に再調査を依頼するが、門前払い。
何か、ある…。
赤松の前に立ちはだかったのは、販売部課長・沢田。
組織人で、野心家。
てっきり沢田が『半沢直樹』で言う所の香川照之の役回りかと思ったら、違った。
沢田も事故原因を不審に思い、会社内のつてを頼り、調べ始める。
そして浮かび上がる大企業の闇の数々…。
事故原因は運送会社の整備不良ではなく、ホープ自動車側の構造上の欠陥。
それを認知しながらも隠蔽した、“T会議”なる上層部の秘密会議。
大会社のリコール隠しが全ての原因であった…!
立場の違う男二人が各々の正義を貫き、大企業の闇に立ち向かう。
対立し合うが、お互いにとって本当の敵ではない。
本当の敵は…。
リコール隠しを突き止め、間もなく週刊誌にも掲載される。
やっと、真実が…!
ところが…
敵は強大なる大企業。
たかだか中小企業の人間や内部の一人の力で敵う相手ではない。
沢田は今回の件を外れる代わりに望みの部へ異動。
赤松と補償金で済ませるよう対処もさせられる。
一方の赤松は…。
“人殺しの会社”に仕事は回って来ない。
銀行から融資の断り。それ所か、返済要求。
遺族側から裁判の訴え。
経営危機どころではない。絶体絶命、崖っぷち、万事休す…。
先代であった父から会社を引き継いだ赤松。
俺は社長の器じゃない…。
それでも、会社と社員とその家族を守る為に闘うと誓った。
それなのに…。
赤松の心を何よりも深く突き刺したのは、遺族の夫の悲痛な叫びだろう。
何でウチなんだ。
妻が何か悪い事でもしたのか。
それでも人間か。
人一人が死んだんだ。
そう、人一人が死んだんだ。
それなのに、どいつもこいつも大事なのは、保身。
本当に分かっているのか…?
人一人が死んだんだという事が。
大企業は必ずそれを認めない。
認めない所か、何事も無かったかのように知らぬ存ぜぬ。
こっちに否は一切無く、全て悪いのは末端。
大企業よ、愛する人を失った遺族の悲痛の声に、責任を丸投げされた末端の苦しみの声に、耳を傾け、聞け。
何度も何度も窮地に追い込まれながらも、赤松は諦めない。
守ると誓った会社の為に。社員の為に。家族の為に。
亡くなった被害者や遺族の悲しみと無念を晴らす為に。
汗水垂らし、靴底を減らし、頭を下げ続ける赤松。
その姿を嘲笑する奴は、人間じゃねぇ。
こんな人間臭い社長になら、ついていきたいと心から思わせる。
そう思わせる大企業の社長が、一体何人居るだろう。
勿論、居るのは居るだろう。
が、これが大企業と中小企業の違い。
背水の陣で挑んだ闘い。
到底一人では無理。
決心の覚悟で挑めば、必ず味方は現れる。
絶対無いと思われていた不正の決定的証拠を託され…。
同じ思いの者たちを信じる。
一人が諦めず立ち向かい続ければ…。
今度こそ。
きっと、届く筈だ。
俺たちの闘いと正義と信念が。
そして遂にやっと、奇跡が起きた。いや、闘い続けた彼ら自身が奇跡を起こしたのだ。
苦闘は必ず報われる。
本当に胸のすく展開。
これが、池井戸作品の醍醐味。
中小企業戦士たちへの讃歌。
原作はもっと豊富なエピソードがあるらしく、原作既読者の間では賛否になってるようだが、原作未読者としては文句は何も無い。
テンポ良く、飽きさせず、見応えあり、コミカルな作品が多かった本木克英監督の演出も上々。
長瀬智也にこの熱い主人公はピッタリ。
組織人として、一人の人間として、葛藤するディーン・フジオカが好演。
この男二人が魅せる対立しながらも…の姿には男ならしびれる。
周りにも実力派が大勢。この人とこの人はあの作品やこの作品で…と思いながら見るのも楽しみ。
そんな中で一人、高橋一生の演技がちと拙かったなぁ…。
それから、先日発表された日本アカデミー賞ノミネートで長瀬の妻役・深田恭子が助演女優賞に挙がったが、そんなに印象や出番、あった…?
エンディングのサザンの主題歌。
よくよく聴けば何と言うか異色の歌なんだけど、何度か聴いていると味がある。
その昔、山崎豊子原作の社会派小説が多く映画化され、極上の骨太エンターテイメントとして今見ても非常に面白く、池井戸作品もそのように本作を皮切りにもっと映画化されて欲しい。
そう思わせてくれる、熱きヒューマン・エンターテイメント!
間もなく公開の『七つの会議』も楽しみだ。
近代さん。奇遇ですw。いやレビュー書いている途中に近代さんが掲載したの知って一度退きました。恐れ多くてwww
七つの会議観たいですね〜
ですが、私ワカサギ釣りで忙しくなるんですよね〜wwww