「ぐいぐい見せる絵巻」アイリッシュマン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ぐいぐい見せる絵巻
国内の映画レビューサイトは5点満点をつかっている。
個人的に気になるのだが、ほとんどの映画が3.5の近似値になる傾向がある──ような気がしている。
一般庶民なので、世間が映画に付ける点数は参考にするが、じぶんの採点には自任はない。
よくIMDBの点を見る。あっちは10点満点なので、わたしはこっちで付けられた点を2倍してみたり、あっちに付いている点を2分の1してみたりする。日本の点が甘いこともあれば、辛いこともあるが、たいていは甘い。
わたし自身、べらぼうに羽振りのいい採点者である。
映画レビューサイトにおいてもっとも信頼のおける勘所は採点者の数だと思う。IMDBはその分母が大きいゆえ、ほぼ世評であると判断できる。
映画を観る前や観た後で、いちばん知りたいのは、偏向のない世評である。
ただしIMDBとはいえアメリカ母体なので、採点者のすくない映画もけっこうある。だがメジャー映画はかなり参考になる。7が佳作のK点だ。
ところが国内レビューサイトでは、ほとんどが3.5の近似値になっているゆえ、有り体に言うなら、良いのか悪いのか、よく解らない。IMDBにおける7のようなK点が、読めないし、個体差もけっこう薄い──と思う。
とても小市民な観点だが、わたしは小市民なので、気になる。
アイリッシュマンを観るまえ、IMDBを見たら、8.6を付けていて──瞠目した。ぶっとびの高得点である。ジョーカーやボヘミアンの初期値を超え、既に採点分母も大きいゆえ、存在のない子供たちも超えている。
期待が膨らんだ。
映画の点数には、そういう解りやすさがほしい──という話。
フランクの長い来歴を扱っているが、さいきんの映画には老若をも往来できるテクニックがあり、現況実年齢のデニーロやペシがどんななのか、皆目わからない。50年もの月日が流れているが、その経年はほとんどシームレス、壮年から老境まで違和がなかった。
フランクとかれがたずさわった権力闘争の興亡を描いている。フランクは一個大隊ほどもの人を殺しているが、迷いはない。登場人物達は皆、いついつ撃たれて死ぬと添え書きされる。愁嘆がばっさりとはしょられ、時代が変遷する。実話らしいが特に知識はない。
いったい彼を駆り立てたものは何だろう──と考える。家族を養うため。生活を豊かにするため。ラッセルとの兄弟の契りのため。恐怖心ゆえ。じぶんを守るため。いろいろあるだろうが、根幹には自尊心──出自に対する矜持があると思う。
建国を支えたアイルランド人、アメリカの有名人には驚くほどアイルランド移民/その子孫が多い。国を捨ててアメリカに渡ってきた移民にとって、簡単に言えば──なめられてたまるかという気概があったのは──想像に難くない。そんなタイトルどおりのThe Irishmanを、イタリア移民のスコセッシが、半世紀も一緒にやってきた強面の仲間たちと楽しげに活写している。
島国のわたしがその真髄を理解したとは言えないかもしれない──とは思う。
ただし落とし所は老境にある。手下たちをくるくると円転させていたラッセルが半身不随で無力な老人になって刑務所にいて、やがて死ぬ。フランクは両杖で娘から見放されている。闘争に暮れたとはいえ、かれには、なにひとつ残っていない。そしてほかに誰も生きていない。
Everybody's dead,Mr. Sheeran. It's Over. They're All gone.
悪党たちの末路にマフィア社会と隣合だったスコセッシ自身のオリジンをかいま見ることが出来る。