「裏社会から見た実録の米国戦後史」アイリッシュマン HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)
裏社会から見た実録の米国戦後史
動画配信サービス・Netflixでの配信のみと諦めていましたが、配信前に日本国内の一部劇場での公開が決定し、ここ京都府のイオンシネマ京都桂川でもお昼と夜間の1日2回上映して下さっていて、とても助かりました。
イオンシネマ京都桂川様、今回もどうも有り難うございました。
監督はマーベル映画の批判発言で老いて尚お盛んなマーティン・スコセッシ。
スコセッシ組のロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルといった名優たちが集結し、さらにはアル・パチーノが初参加。
個人的にはマフィアものの映画は苦手な分野であまり鑑賞した事も無いのですが、今作では、殺人のシーン自体はそれ程多くないので案外観易かったですね。むしろクルマの爆破シーンが多かったですね。
戦後の米国の裏社会に生きた無法者たちを描いた作品であり、実在の<アイリッシュマン>とも呼ばれる、いちトラック運転手であったフランク・シーランが、やがて殺し屋と身をやつしていく過程を、ロバート・デ・ニーロが演じ、彼の回想形式で物語は進行していきます。
ただ、正直、最初の方は数多くの登場人物の名前や相互関係が全く分かっていなかったので、イマイチな作品かなといった印象を持ちましたが、徐々に配役同士の相関関係がクリアになっていき、さらには、歴史上の有名な人物であるJFKの大統領選挙の際の集票マシンと化したり、ロバート・ケネディ司法長官に執拗に問い詰められている辺りから、裏社会から見た米国戦後史と交錯して、俄然面白くなり、その後も、キューバ危機やJFK暗殺事件、ウォータゲート事件、年金運用資金の横流しによるラスベガス開発などに関与し、虚実入り交じりながら様々な事件に登場人物が裏社会で絡んだ事が語られていくので、裏社会から見た米国戦後史に少しでも興味がある人にとっては凄く面白い作品になっていたかと思います。
その中でも、ヤマ場は、1975年の全米トラック運転手組合の委員長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の失踪事件。
このホッファの右腕であり、さらに、裏社会のボス、ラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)からも目をかけられている<アイリッシュマン>ことフランク・シーランの、その綱渡り状態、板挟み状態が見どころでもありました。
そのマフィア稼業ゆえに家族からも白い目で見られ、孤独な老後を送る男の悲哀も描かれ、胸に迫るものがありました。
ただ出演者がみな高齢のせいか、会話のシーンがかなりを占めて、アクション自体は少なめ。
スコセッシ監督の得意とされるマフィア映画でしたが、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ共に若かりし頃から晩年までをメイクやCG技術で演じ切り、特にデ・ニーロの顔を若返らすなど技術の進歩のほどには驚かされました。
丁寧に人生を俯瞰するためなのか、それとも上映時間に制約のない配信作品だからか、なかなかの長尺作品ですが、構成にややメリハリが欠けると思われるところもあり、本編3時間29分に予告編を加えて、正味約4時間近くのイッキ見上映は、映画の内容的には面白かったのですが、正直長くて、かなりしんどかったですね。
実際に、インターミッションなどのトイレ休憩も一切ないので、上映中に中座してトイレに立つ観客もかなり多かった事からすれば、途中休憩の時間を作って欲しかったのが正直なところでした。
私は、幸いにして、EDロール最後まで、どうにか膀胱も保ってくれましたが、予告編を削るか或いは途中休憩を挟むかどちらかで少しでも鑑賞時間を短くする努力を図って、対応して欲しかったですね。約4時間近くも中座も出来ないのはちょっと辛かったですね。
私的な評価としましては、
豪華名優そろい踏みに胸が高まる映画でしたし、マフィアの裏社会から見た米国戦後史という着眼点が面白く、ましてや実録のノンフィクションとの事で、歴史上の有名な人物や事件の背後関係も描かれている点で、米国戦後史に興味のある私にはドンピシャで面白い映画でした。
従いまして、満点評価であってもおかしくないくらいの傑作でしたが、但しながら、上映時間が長過ぎる点でかなりしんどい思いをしたのも確かでしたので、その点を星半分(0.5点)マイナスさせて頂き、五つ星評価的には、ほぼ満点の四つ星半の★★★★☆(4.5点)の評価とさせて頂きました。
※尚、Netflix配信作品の今作は限定上映でもあることから、パンフレットに類する物は製作・販売されていないのですが、映画雑誌・映画秘宝の最新号(女優のんさんが表紙の2020年1月号)に、『アイリッシュマン』究極攻略&Netflix実録殺人映画大全といった特集記事が載っていますので、ぜひ参考書籍として購入されれば、より今作の理解が深まるかとも思います。