「彼が守りたかったものは何だろうか?」アイリッシュマン みっくさんの映画レビュー(感想・評価)
彼が守りたかったものは何だろうか?
ラストでFBI捜査官が、主人公に問う。
「みんな死んだ。誰のために秘密を守っているんだ?」と。
彼は何を守りたかったのだろうか?
国を守るため、第2次大戦で戦った。
家族を守るため、収入を増やしたくて、コソ泥を始めた。
(「グッドフェローズ」にも、ギャングがトラック運転手に賄賂を渡して積荷を頂くシーンがあった)
「副業」として、クリーニング屋を吹っ飛ばそうとしたら、親分(Hカイテル)が出資してる会社だと実行直前に判明。そうなれば、自分が生き残るために、依頼主を消すしかない。
それから「殺し」を請け負うようになる‥
本作は、マフィアもの、ではあるが、「ゴットファーザー」「グッドフェローズ」他のマフィアものとは違う。それは、「主人公が下っ端」ということ。
下っ端は言い過ぎか。「主体性が無い」というか「サラリーマンっぽい」というかな。
だから、「殺し」を請け負っても、特に自分の意思はなく、淡々の「仕事」をこなしていく。まるで「日常業務」かのように。
それは、その「日常業務」をこなすことが「家族を守る」ことになるから。
本作は「アメリカの戦後史」という面もある。
トラック労組、ホッファ、Rケネディ、JFK、キューバ、ラスベガス開発‥
特にホッファの人気は現代日本人から見れば驚き。ただの労組のリーダーでしょ。
(「グッドフェローズ」でも、羽振りが良いことの言い訳として「労組幹部だ」と嘘をつくシーンがある。ソ連(労働者の天国!)と冷戦中で、「最強の資本主義国」であるアメリカで、労組が巨大な権力を握っている、というのは皮肉ではないだろうか)
単なる「人気」に留まらず、自分を避けている娘が、ホッファのことは大好きで慕っている、ということが本作の肝でもある。
家族を守るために、汚い仕事を請け負い、刑務所まで行ったのに、
その家族は徹底的に自分を嫌い続けている。その悲哀が泣かせる。
仕事漬けのサラリーマンの父親が、家族から疎まれる、という日本中の家庭で見られる光景と、この「アイリッシュマン」がダブって見えてしまった。
(そこまでしたのに、若い介護職員はホッファが誰だか知らない、という現実まで見せつけられる。)
だからこそ、ラストシーンでは、自室の扉を開けて、外の音が聞こえるようにした。何も言わないが、それだけ孤独だ、ということ。
派手さは無い作品ではあるが、主人公たちの演技を見るだけでも価値がある映画。
惜しむべくは、主演俳優たちが年寄りすぎ。動きにキレがない。
彼らが俳優として最もアブラがのっていた頃、20年前頃かなあ。
その頃に本作が作られていれば‥と思うが、その頃は原作自体が無いし、CG技術も無いし、本作に資金を出そう、というNetflixもない、という無い物ねだりだな。
次は原作を読んで見よう。それでまた本作を見てみよう。