「圧倒的な映画としか言えない」アイリッシュマン andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
圧倒的な映画としか言えない
東京国際映画祭でチケットを取れなかったときは倒れそうだったが、無事劇場公開されて何より...やはり映画はスクリーンが良い...。
マーティン・スコセッシがロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシと組んでマフィア映画というだけで垂涎ものではあるが、正直あっという間の209分だった。長さを感じない。
マフィア映画よろしく人間関係がちょっと入り組んでいて、最初誰が誰だっけ?となりかけたが、いやはやその重厚で息詰まる駆け引きに完全に引き込まれた。頑固者アル・パチーノと超やり手ジョー・ペシに挟まれて、最終的には半ば悟ったように自分の役割をこなすロバート・デ・ニーロ。哀愁というか、表情が何ともいえず複雑。
中年期から老年期まで同じ役者が演じているが、ロバート・デ・ニーロの若返りっぷり...VFXの偉大さを感じる。不自然感がまるでない。技術革新万歳。
物語は、これだけどっしりとした役者が集まっているのでドンパチではなく完全に会話、駆け引きの妙である。それぞれがそれぞれの役を完全に生きていて、その栄枯盛衰ぶりが切ない。
強かなようで結局板挟みになるロバート・デ・ニーロ。狂ったように頑固に拘り続ける感情的なアル・パチーノ。底の知れない怖さを見せるのに余りに最後が儚いジョー・ペシ。物凄いやり取りだった。あの表情。あの言葉。全部がとにかく、そこに居るような気分にさせられる演技であり、映画なのだ。
彼らは何かを守る為に謀略を重ねてきたけれど、結局何を守ってきたのだろう。というところが娘のアンナ・パキンに集約されている気がしてならない。どんなにうまく立ち回れる男でも、家族の前には全く無力だったのだ。守ったつもりで忌避されていたという。
マフィア物は名作がたくさんあるけれど、これはひとつ刻まれた映画だな、と勝手に思う。できれば劇場で観てほしいと願ってしまう。