ゲット・アウト : 映画評論・批評
2017年10月17日更新
2017年10月27日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
知的で抜け目のない演出、脚本が恐怖と笑いを生み出す人種差別スリラー
今年2月に全米チャート1位を記録し、興収1億ドルの大台超えを軽々と達成したスリラー映画である。今なおアメリカ社会に根深く残る人種差別というテーマを恐怖と笑いに転化させたのは、これが監督デビュー作となる人気コメディアンのジョーダン・ピール。さて、そのお手並みはいかなるほどか?
インテリ写真家の黒人青年クリスは、ルックスも気立ても抜群の白人女性ローズと交際中。しかし往年の社会派ドラマ「招かれざる客」のシドニー・ポワチエさながらに、ニューヨーク郊外にあるローズの実家を訪ねることになった彼の胸の内は不安でいっぱいだ。ローズいわく「私のパパはオバマ大統領の支持者」だそうだが、ポワチエのあの映画だってリベラルな白人層の欺瞞を痛烈に暴いていたではないか。対面早々、相手に「出て行け!(get out!)」と怒鳴られるのではないかと、戦々恐々となるのも無理はない。
この導入部からして好奇心をそそる本作は、観客の予想もつかない"衝撃の展開"が用意されているのだが、それに至るまでのスリルの盛り上げ方が実にうまい。やけにほがらかなローズの両親に歓待されてホッとひと息つくクリスだが、すぐさま宣伝コピーにもなっている"何かがおかしい"感覚にまとわりつかれるはめになる。ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべるメイド、真夜中に広大な庭を全力疾走で駆ける管理人の男(どちらも黒人だ!)、過剰なまでにフレンドリーなパーティーの白人客たち。彼らがまきちらす微妙な違和感が、ふとした弾みで"明らかにおかしい"サプライズへと変わりゆくショック描写が効果的にちりばめられ、しかもそれがいちいち後半への予兆と伏線になっている。これは決してアイデア勝負の一発芸ではなく、知的で抜け目のない演出、脚本に裏打ちされた"人種差別スリラー"なのだ。
クリスを絶望のどん底に突き落とすギミックのひとつとして、催眠術が用いられることを明かしてもネタバレには抵触しないだろう。少年時代にあるトラウマを負った主人公が心の深層に眠る"究極の恐怖"をえぐり出される様を、映画ならではのシュールな飛躍に満ちた悪夢的イメージで映像化。その後のあっと驚く展開はかなり荒唐無稽なのだが、そこにもねっとりとした嫌らしい生々しさがみなぎる。これだからアメリカのジャンル映画を観るのは止められないと思わされる大収穫の怪作、いや鮮やかな快作なのであった。
(高橋諭治)