嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー四世 PART2

劇場公開日

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解説

シェイクスピアの戯曲を基に、英国の王冠をめぐる争いを豪華キャストで描いたBBCのミニドラマシリーズ「嘆きの王冠 ホロウ・クラウン」を劇場公開。7エピソードのうちの第3話となる本作では、ヘンリー4世と息子ハル王子の和解と王位継承を描く。父ヘンリー4世の軍に参加し、宿敵ホットスパーを倒したハル王子。ロンドンに戻った彼はフォルスタッフら悪友たちと昔のままの関係を続けていたが、病で崩御する直前のヘンリー4世とついに和解し、ヘンリー5世として王位に就く。フォルスタッフは友人として恩恵を受けようとお祝いに駆けつけるが……。PART1に続き、「あるスキャンダルの覚え書き」のリチャード・エアーがメガホンをとった。

2012年製作/121分/PG12/イギリス
原題:The Hollow Crown - Season 1, Episode 3: Henry IV, Part 2
配給:カルチャヴィル

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映画レビュー

4.0フォルスタッフ!魅力溢れる悪漢

曽羅密さん
2017年9月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ホロウ・クラウンシリーズの第3作目に当たる本作で遂に納得できる作品に出会えた。
原作のある作品が映画化された場合、筆者は映画を観た際に原作を読みたくなるかをその作品の出来不出来の1つの基準としている。
なお原作を読んだ結果、原作と映画が全く違う作品であってもそれ自体は全く問題ない。
前2作品は残念ながら原作を読みたいとは思わなかったが、本作には読みたいと思わせる魅力があった。

題名は「ヘンリー四世」だが、主役は明らかにファルスタッフという小悪党である。
この小悪党の栄達から没落までが描かれているのが本作と言える。
正直ヘンリー四世からその子ヘンリー五世への王権移譲という本来の主たる展開は彼の存在の大きさを考えると傍流である。
筆者も遅ればせながらこのシリーズの第1作に当たる『リチャード二世』、第2作『ヘンリー四世 第一部』、本作『ヘンリー四世 第ニ部』のシェイクスピアの原作を立て続けに読んでみた。
正直第1作の『リチャード二世』は原作もさほど面白くなかった。
そしてフォルスタッフが登場がする『ヘンリー四世』二部作の方が原作においても格段に面白い。
本屋の店員に薦められたるままシェイクスピア全集のあるちくま文庫版と白水ブックス版の両方の棚へ案内されたが、まだ訳出されていないか単にその店舗に在庫がなっかただけなのかわからないもののホロウ・クラウンシリーズが全て手に入る白水ブックス版を今回は求めることにした。
白水ブックス版は初訳の年代が古いせいかあまりこなれていない訳出だったが、おおよその雰囲気はつかめるので十分だと判断した。
そして実際に手に取ってみると『リチャード二世』と『ヘンリー四世』二部作の違いは明らかだった。
筆者には同じシェイクスピア作品ながら『リチャード二世』は『ヘンリー四世』二部作に比べて窮屈で伸び伸びしていない印象を受ける。
その大きな違いがフォルスタッフに代表されるともすると下品な登場人物たちの活躍である。
また文章においても明らかな違いがある。
貴族や王族の間で交わされる会話は定型詩のような文章で展開されるのに対して、下々の人々の会話は散文である。
面白いのは後にヘンリー五世となるハル王子が王宮で父王らと会話する時は定型文、フォルスタッフらと会話する時は散文と書き分けされている点である。
またシェイクスピア自身がそもそもはこういった巷間の出身だろうし精通してもいるだろうからか会話では常に丁々発止のやり取りが展開されるのに対して、王宮や貴族間でのやり取りは当時刊行されていた歴史書などからの引用や想像の産物だからか全体的にどうしても固い。
むしろシェイクスピアの文章における過剰な比喩や装飾はそのあまり良く知らないという欠点を補うための手段でもあったのではないかと疑ってしまう。
『リチャード二世』の文章は貴族や王族しか登場しないので定型文のみである。
なるほど筆者が同作に物足りなさを感じたのはこういう理由であったかと納得できた。
それから歴史的に見ても『ヘンリー四世』の主役はフォルスタッフと考えられていたようで、宮廷から下品すぎるという声があがり上演から遠ざけられた時期もあったようだ。
またフォルスタッフの元々の名前は「オールドカッスル(古い城)」であったらしく、実際にその名前の英雄が存在していたらしいが、子孫たちが下品なキャラクターに名誉ある名前を使ってくれるなと猛烈な反対にあったため現在の名前に落ち着いたという経緯があるようだ。

さて筆者はオペラの『フォルスタッフ』も観てみることにした。
同オペラは『椿姫』などの悲劇で有名なヴェルディが80歳になんなんとする最晩年に作曲した喜劇(オペラ・ブッフォ)であり、イタリア語なので正しくは『ファルスタッフ』である。
内容は好色なフォルスタッフが同時に2人の女性に言い寄り、それを知ってしまった2人が周囲の人々を巻き込んで面白可笑しくフォルスタッフに復讐するのを主軸に、サイドストーリーとして娘の父親から結婚の許しがない若い男女の結婚成就への道のりを描いている。
現代人の感覚からすると取り立てて面白い作品とは言いがたいが、オペラ化されること自体がイギリス生まれのこのフォルスタッフというキャラクターがヨーロッパ全土に浸透していた証である。
『ヘンリー四世』も原作としているが、同じくシェイクスピア作の『ウィンザーの陽気な女房たち』にその多くを負っているかもしれない。ただ『ウィンザーの〜』を読んでいないのではっきりしたことはわからない。
ちなみに『『ヘンリー四世』にも登場するフォルスタッフの悪友バードルフとピストルも、バルドルフォ、ピストーラとイタリア語読みになっている。

本作の監督は元々舞台監督であり普段舞台は観客にアップの映像を見せることができないせいからなのか、映画全体としてアップ画面の多用が目立つ。
特に前半に多く、いささか観づらい。
しかしその欠点を補ってもお釣りのくるフォルスタッフの存在そのものがこの作品を楽しめるものにしている。
フォルスタッフ!フォルスタッフ!フォルスタッフ!
オペラの最後にフォルスタッフは叫ぶ「人間すべていかさま師!」と。

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曽羅密
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