劇場公開日 2017年5月13日

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トンネル 闇に鎖(とざ)された男 : 映画評論・批評

2017年5月2日更新

2017年5月13日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

異色の災害サバイバル。「最後まで行く」のキム・ソンフン監督がジャンルを拡張する

ひとり車を走らせる男。携帯電話越しの家族との会話。幼い娘のためのケーキ。脚本も担当したキム・ソンフン監督は冒頭、第2作にしてカンヌ国際映画祭監督週間招待作「最後まで行く」のセルフパロディーのようにストーリーを紡ぎ始める。だが、殺人課の刑事が人をはねてしまう前作に対し、今回の主人公ジョンスは山中のトンネルに差しかかったとき、轟音とともにトンネルが崩落し、車ごと生き埋めに。そこからは当然まったく異なる筋になるが、先を読ませない展開、いやおうなく登場人物に感情移入させる演出、シリアスな状況から笑いを生む独特のユーモアセンスなど、「最後まで行く」を傑作たらしめた要素はこの「トンネル 闇に鎖された男」でも健在だ。

トンネルや坑道に事故で閉じ込められる過去の映画としては、スタローン主演の「デイライト」、実話に基づく「チリ33人 希望の軌跡」が思い浮かぶ。だが、前者のようにトンネルに閉じ込められたタフな主人公が大勢の被災者を救うヒロイックなスペクタクルとも、後者のように団結して生き延びようとする坑夫仲間や救助活動に献身する男たちにフォーカスした感動ドラマとも、微妙に違う。上記のような同ジャンルの定番要素もだいたい出てくるが、着地点を少しずつ、しかし確実にずらして、より面白くする。ジャンルを拡張する着想と工夫が盛り込まれているのだ。

お嬢さん」のうさんくさい詐欺師役が記憶に新しいハ・ジョンウは、うってかわって家族思いの誠実なジョンスに扮し、コンクリートの瓦礫に囲まれ粉塵にまみれながら脱出しようともがく孤独な戦いを体現した。妻役には30代後半にしてなお少女の面影を残すペ・ドゥナが、絶望しかける夫を叱咤する気丈さと、世間の圧力に揺らぐ弱さを繊細に表現。さらにジョンスを救おうと全力を尽くす救助隊長を演じたオ・ダルスが、大真面目なのにどこかとぼけた味わいで観客をなごませる。

ほかに、人命軽視・経済優先、手抜き工事、見かけだけの女性リーダーなど、韓国にとどまらない社会問題への風刺も有機的にからんでくるのだが、その鮮やかな手並みはぜひ本編で確認していただきたい。新作が待ち望まれる監督のリストに、ソンフン監督もきっと書き加えられるはずだ。

高森郁哉

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