「神戸震災と、バルト三国の四半世紀を重ね、"生きる"意義を浮き彫りにする」ふたりの旅路 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
神戸震災と、バルト三国の四半世紀を重ね、"生きる"意義を浮き彫りにする
上映館が極少なので、スルーしようと思っていた作品ながら、ちょうど(?)立ち寄った名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマ(MLS)でやっていた。
初MLSだったが、トヨタグループ主導で作ったプレミアム映画館だけあって、通常料金でクッション性の高い革張りシートでくつろげる、セレブな都市型シネコンに感激。意外と映画館事情の悪いナゴヤにあって、比較的アップデートされた設備ではある。
本作のMLSでの初日ということもあり、キモノ姿の女性がシアター内を埋め尽くしている。これについては、後で言及する。
さて、主演は桃井かおり。日本の大女優である彼女は「SAYURI」(2005)でハリウッドデビューして、今年も「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017)に出演するなど、いまや海外作品を中心とした活動に切り替えている。すでに66歳ということを考えると、引き合いがあること自体が凄いと言わざるを得ない。本作もラトビア・日本合作であり、しかも主演!! ときたもんだ。
注目は、夫婦役でイッセー尾形と共演。2人の共演は、昭和天皇を描いたロシア映画「太陽」(2005)以来で、桃井かおりは香淳皇后を演じていた。イッセー尾形も今年、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙 -サイレンス-」(2017)に出演し、井上筑後守役が海外でも高い評価を受けている。
桃井かおり演じる神戸在住のケイコは、ラトビアで行われる、着物ショウに参加するため、首都リガを訪れる。そこで、かつて震災(阪神・淡路!)で行方不明になった夫と不思議な再会をする。桃井と尾形の喧嘩ごしの掛け合いはアドリブではないかという思われるシーンもあり、2人が作り出した夫婦の間(ま)は、監督の意図を越えたところにある。
監督がラトビア出身のマーリス・マルティンソーンスということや、リガ市が神戸市と姉妹都市ということで、日本のキモノ(とくに留袖)文化・日本食がテーマになっている。町の一部が世界遺産で、ヨーロッパ有数の美しい都市、リガの風景が満喫でき、美食でも知られるバルト三国の料理も出てくる。しかし、なんとなく観光宣伝に感じなくもない(協賛に"JTB"の名前もあるし)。
また着物ショウの出演ボランティアに、"一般財団法人 民族衣装文化普及協会"の協力を得ている。雑誌"美しいキモノ"(ハースト婦人画報社)も協賛。おそらくその関係で、わざわざキモノ姿で映画を観にくる女性たちが揃ったのだろう。そう考えると、実にオトナの映画(笑)である。
不思議エピソードの偶然性がゆえに、ストーリーに飛び込みにくい構成であるが、脚本が日本(人)に精通しているだけでなく、阪神・淡路大震災がモチーフになっていて、とても繊細な切り口の作品だ。ちなみに脚本も監督自身だ。
食の本質は、"食べる=生きる"にある。生命の尊さをさりげなく、"食"に結び付け、さらに震災やバルト三国の歴史を引用することで、"死"と"生"によるコントラストを描き出す。また"留袖"は、結婚式に着るもの。"誕生"、"結婚"、"出産"、"葬式"という人生イベントに、意味を持たせている。
震災は1995年。バルト三国のソ連からの独立は1991年。"復興"・"再建"を歩んだ期間はいずれも四半世紀である。それを主人公ケイコの孤独の20年とこれからの再出発に重ね合わせていく。
(2017/7/15 /ミッドランドスクエアシネマ/シネスコ)