「こんなにリアリティ至上主義なのに、やっぱり火星人はタコ型なの?」ライフ(2017) Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
こんなにリアリティ至上主義なのに、やっぱり火星人はタコ型なの?
久々に骨太の宇宙SFスリラーの登場だ。
"外来生物を、水際で食い止める"といえば、ちょうど話題の"ヒアリ(火蟻)"である。それが火星で採取され、宇宙ステーション内で暴走する生命体(=LIFE)だったら、というSF映画である。
ちょっとプロットを聞きかじっただけで、リドリー・スコットの「エイリアン」 (1979)をはじめとする古典SFスリラーを思い浮かべるはず。しかし時代は変わった。
NASAが、土星の衛星"エンケラドゥス"に生命が存在する可能性が極めて高いと発表したのは、今年4月のことだ。もうエイリアン的な話は、フィクションではない。
とにかくリアリティ至上主義だ。「シン・ゴジラ」(2016)が、「ゴジラ」(1954)の現代的なアプローチだとしたら、本作と「エイリアン」 (1979)の関係性はそれに似ている。満を持して登場したといってもいい。
「ゼロ・グラビティ」(2013)で再現された"無重力"、「オデッセイ」(2016)での描写に使われた"科学的裏付け"、そしてもちろん宇宙空間を作り出す"デジタルVFX"、地球外生命体をはじめとするクリーチャーに命を吹き込む"CG技術の進化"、さまざまなエレメンツも揃った。
その一方で、リアルすぎる国際宇宙ステーション(ISS)内のディテールは、アナログな手法を使ってこだわる。ISS内のシーンでは、グリーンバック(クロマキー)によるCGで描くのではなく、実際に大掛かりなセットを作ってしまった。劇中で、地球外生命体を観察する実験棟は、日本が開発した"きぼう"だったりする。
ISSの搭乗員の人種、性別、職業(役割)、キャリアなどひじょうにバラエティに富んでいて、ストーリーの深みにつながっている。出演はライアン・レイノルズ、ジェイク・ギレンホール、レベッカ・ファーガソン、真田広之と、かなり豪華である。本作は地球外生命体の検疫問題が主たるテーマであるが、このISSにも宇宙の検疫担当官が乗船している。
地球外生命体の幼体時の姿は、実在する"粘菌"をモチーフにしている。なので「エイリアン」のようなワクワクするクリーチャーデザインではない。それなのに変態を繰り返して、"タコ型"になる。「メッセージ」(2017)もタコ型だったが、火星人=タコ型というのは?である。SFは昔の方が夢と色気があった・・・。
"ヒアリ"の上陸根絶ができた国はほとんどない。だからこのエンディングは正しい。
(2017/7/8 /丸の内ピカデリー/シネスコ/字幕:稲田嵯裕里)