スプリット : 映画評論・批評
2017年4月25日更新
2017年5月12日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
多重人格スリラーを現代の残酷なおとぎ話へと変容させたシャマラン魔術!
全編P.O.V.の前作「ヴィジット」で復活の狼煙を上げたM・ナイト・シャマラン監督が、自身の出世作「シックス・センス」以来の全米3週連続1位の大ヒットを記録。なるほど、3人の女子高校生を誘拐する悪役キャラクターが“23の人格を持つ男”とは、実にキャッチーで好奇心をそそる設定である。謎の密室に監禁された女子高校生たちの前に、潔癖症の青年、9歳の少年、優雅な女性などに次々と変貌して現れるその怪人を、ジェームズ・マカヴォイが声色や仕種などの細部に凝ったカメレオン演技で体現する。
とはいえ、それはあっと驚く終盤に向けてのトリッキーな前奏で、このあまりにも奇妙な多重人格者の未知なる“24番目の人格”がストーリーの焦点となる。はたして“ビースト”と名付けられた最後の人格はとてつもない怪物なのか、それとも妄想の産物なのか。かつて「サイン」で一般市民の自宅のリビングルームにエイリアンを出現させたように、観る者の期待をさんざん煽ったうえで、前代未聞の仕掛けを本当に映像化してしまうシャマラン・マジックがまたしても炸裂する。
となると監禁された女子高校生たちはただ悲鳴を上げればいい役回りのはずだが、今回のシャマラン映画はそこがひと味もふた味も違う。日本未公開のアート系ホラー「The Witch」で圧巻の存在感を見せた新進女優アニヤ・テイラー=ジョイをヒロイン役に起用。絶叫クイーン役の他のふたりとは異なり、テイラー=ジョイ扮するケイシーは一切騒がず叫ばない内省的な女の子だ。赤いフードを被せればそのまま赤ずきんに変身しそうなケイシーは、幼い頃の悲惨なトラウマを引きずっており、当時9歳だった彼女の人生を一変させた“森”での記憶=フラッシュバックがサブ・ストーリー的に挿入される。
そう、まさしくケイシーは残酷なおとぎ話のヒロインだ。いわばこれは暗黒の迷宮に囚われた美少女と、想像を絶する形で彼女を脅かす野獣の物語であり、クライマックスでその“覚醒”と“解放”を鮮烈に描いてみせるストーリーテラー、シャマランの冴えは奥深ささえ感じさせる。「イット・フォローズ」の特筆すべき撮影監督マイケル・ジオラキスを招聘するなど、スタッフのスカウティングも抜け目なし。そしてこのメルヘン・スリラーにはエピローグが用意され、過去の某シャマラン映画との超常現象のような結合を果たす。それはただの悪のりなのか、もしや構想に十数年を費やした新たなシャマラン・マジックの始まりなのか。今後の展開を待つほかはない。
(高橋諭治)