「たしかにクロックの名前は知らない」ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
たしかにクロックの名前は知らない
マクドナルドにこんな裏話があったのかとなかなか興味深く観られた。
マイケル・キートン演じたレイ・クロックは桁外れの実行力を備えた野心家だが、周りの人間を利用して自分の陰謀を巡らすいうなれば人間のクズである。
せっかく成功したのに後世たかが東洋の一市民から「クズ」と思われるとは彼も思っていなかったかもしれないが、この映画を観てそう思う人間はたくさんいるだろう。
面白いのは監督から主演のキートンをはじめ出演者のほとんどが最終的には彼を好ましく思っていないということである。
せっかく成功したのにね。
彼を擁護する人間からすれば、ビジネスは綺麗事だけじゃない!と言うかもしれないが、綺麗事で成功する企業も世の中には巨万とあるだろう。
Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグにも似たようなところがあり、映画の『ソーシャル・ネットワーク』の中でその実像が暴かれている。
本作もそうだが、人を蹴落としてでも成功することは本当に幸せなのだろうか?
クロックは「ライバルが溺れていたら、ホースを喉に突っ込んでやる」と言っているので幸せかもしれないが、やはりはたから見てそういう人間には品がないと感じる。
結局は各個人個人が己の生き方を決めて行くしかない。
とはいえ筆者もそれほど人に胸を張って誇れるような人生を送っているわけではないので、本作のような映画を観て教訓にしたいと思う。
本作の監督であるジョン・リー・ハンコックの作品は過去に『アラモ』と『ウォルト・ディズニーの約束』を観ているが、その演出方法に取り立てて印象がない。
しかし、ともするとクロックの人物像は賞賛か唾棄かのどちらかに偏りそうな人物であるが、主演のキートンが目的に邁進するひた向きさと野望の前には人を欺くクズっぷりの両方を兼ねた素晴らしい演技を見せてくれる。
マクドナルド兄弟を演じたニック・オファーマン(弟)とジョン・キャロル・リンチ(兄)の2人も、事業が拡大していく歓びと拡大すればするほど自分たちの手から離れていってしまう悲哀との板挟みになるジレンマを見事に演じている。
脚本の出来も素晴らしいが、この3人が配役されたことで本作は成功したと言える。
『ウォッチメン』のナイトオウル役で想い出されるパトリック・ウィルソンやローラ・ダーンなど、懐かしい顔を本作で観られたのも良かった。
また初期のメニューや店舗も徹底的なリサーチから再現しているという。
細部にこだわっているために物語の真実味が増す好例である。
本作を映画化するリサーチの段階で、マクドナルド家が大量に保管していたクロックとマクドナルド兄弟との会話を録音したテープや書簡、記録写真、設計図、模型などを目にしたらしい。
マクドナルド兄弟は50年もこの話が表に出ることを待ち望んでいたというから、よほど悔しかったのだろう。
ただ映画化の話が持ち上がった時には既に2人とも他界していた。とはいえこうして映画化されたことで彼らの魂も救われたことだろう。
また本作でも描かれているようにジョアン・スミスは後にクロックの3番目の妻となっているが、彼の死後ほとんどの財産を慈善活動につぎこんだようだ。
やはりどこかで贖罪意識を持っていたのだろうか?
なおアメリカ人に言わせると日本のマクドナルドはメニュー通りの商品がきちんと出て来て接客態度も最高らしい。
本作を観て、本国の店舗がマクドナルド兄弟どころかクロックの教えすら守っていないことになるが大丈夫か?と心配してしまった。
ところで、このクロックの自伝『成功はゴミ箱の中に』が日本語に翻訳されて刊行されている。
ソフトバンクの孫正義とファーストリテーリングの柳井正が帯で「これが僕たちの人生のバイブル!」と推薦している上に巻末の解説まで担当している。
老婆心ながらそれは返って逆効果ではないだろうか?と思ってしまう。クロックと同じ穴のムジナと思われないだろうか?
それと1つ、ソフトバンクの白戸家のCMには日本人の1人として大変憤っている。
韓国ではことわざにも使われるくらい犬は卑下する存在である。
また黒人への差別も激しい。現にアメリカで1992年にロス暴動が起きた際、日頃から差別されて韓国系に不満を抱いていた黒人が韓国系商店だけを狙い撃ちして襲っている。
その顛末はスパイク・リー監督作品の『ドゥ・ザ・ライト・シング』にも描かれている。
犬のお父さんに黒人の兄、そして日本人の妹、わざと序列しているように思える。
また白戸家の名前を使っているのもわざとに思える。
戦後の日本でアメリカと対等に渡り合った人物に白戸次郎がいる。彼はアメリカに対して「将来在日朝鮮人が日本の大きな問題になる」と訴えた人物である。
そして彼の奥さんの名前は白戸正子になるが、まさにCM内で犬のお父さんの名前は「白戸次郎」であり、樋口可南子演じるお母さんの名前は「白戸正子」である。
他にも国民的アイドルのスマップを作り物とはいえ犬の肛門から出すCMまで作っていた。
朝鮮系日本人の孫正義が創業者の企業だからこんなに日本を馬鹿にしているのかと勘ぐりたくなってしまう。
日本でお金を稼いでいる以上こういう不愉快なCMは即刻やめてほしい。
本作を観終わった後、マクドナルドに寄ってハンバーガーを買うべきか買わないべきか迷った。
どちらがマクドナルド兄弟に敬意を払うことになるかなかなか答えは出なかったが、最後に弟のディックがクロックに向かって「名前が残るのは自分たちだ」と言い残した言葉を思い出し、彼ら兄弟に感謝して買うことにした。
暖かいチーズバーガーは美味しかった。