「主人公・ドミニカの危うさと狡獪な策謀に揺さぶられる。」レッド・スパロー すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公・ドミニカの危うさと狡獪な策謀に揺さぶられる。
◯作品全体
国家的な策謀に巻き込まれた主人公が諜報員としてのスキルを磨き、そのスキルを使って戦う…みたいな流れの、ハニトラメインの『アトミック・ブロンド』みたいな作品なんだろうなあという感覚で見始めた。
序盤の導入はまさしくそんな感じ。素人だけど才覚のある主人公がスパイ学校に通って…という流れや、やたらと性欲に固執した場面展開からも「エロティックとスパイを撮りたい」というのが伝わってきた。
しかし中盤からの展開は良い意味で予想を裏切られた。
ハニトラはあくまでもきっかけでしか使用せず、主人公・ドミニカが母との生活を守るためにロシア側もアメリカ側も翻弄させながら策を巡らしていく…ド派手なアクションシーンもほとんどなく、ドミニカの立ち回りによってストーリーが進んでいくのは見応えがあった。
そのドミニカの戦略は経験値不足もあって不完全で見抜かれることが多々あるのも説得力があって面白い。全てが筒抜けになってしまうことで劇中ほぼ不利な状況にいるドミニカの危うさが物語に引き込ませ、従兄やアメリカ側の善意を手玉に取る狡獪さ際立つラストへ突き落とす。「できるスパイ」とは一線を画した展開が印象に残る作品だった。
◯カメラワークとか
・寒色が強い画面が印象的。画面に映る多くのシーンが無機質で、ドミニカの居場所の不安定さにつながっていた。
一方でドミニカが纏う赤色の使い方が素晴らしい。最初のバレエシーンの赤い衣装、初めての作戦での赤いドレス。赤はロシアをイメージさせ、それに囚われたドミニカを作り出す。ラストのバレエを観劇するドミニカシーンでは、赤いカーペットを降りていくドミニカが印象的。今までロシアに乗っ取られていたドミニカが、ラストではロシアが作った道の上を堂々と踏み歩いていく。ドミニカが抱く「特別でいたい」という感情を、ロシアを動かす立場によって成功させているようなラストだ。
◯その他
・ロシア、アメリカ両陣営にも心を許さずのドミニカの立ち回りが面白いのだけど、急に「自由」を振りかざし善人ぶるアメリカが出てきてちょっと気持ち悪い。
ラストのドミニカの選択はそんなアメリカも信じない、というようなものだったけど、善悪の構図が露骨すぎてちょっと冷めてしまったところもあった。ラストの電話はドミニカを一人の女性に戻すナッシュの恋文みたいな感じでそれはそれでいいんだけど、個人的には赤い階段を降りるシーンで終わっていた方が、ロシアを踏み歩き生きていくドミニカの決意を映している気がして良かったんじゃないかな、と思った。