「映像は豪華だが、ミステリーとしては中途半端か」オリエント急行殺人事件 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
映像は豪華だが、ミステリーとしては中途半端か
原作小説も読んでいるし、1974年のシドニー・ルメット監督&ポワロ=アルバート・フィニー版も観てるし、テレビシリーズのデヴィッド・スーシェ版も観ています。
なので、犯人も当然知ってるし・・・
というか、この映画を観に来る観客の大半は、犯人は知っていると思うのですが。
なので、再映画化はかなり難しい。
1974年のシドニー・ルメット監督版では、概ね原作に忠実に作られていた。
というのも、原作もいまほど有名ではなく(といってもかなり有名)、さらに初めての映画化だったので、豪華なキャストによる原作どおりの「謎解きミステリー」としての愉しみを味わってもらおうという趣向でした。
2010年に作られたデヴィッド・スーシェ(=ポワロ)のテレビシリーズの一篇『オリエント急行の殺人』では、事件の真相を知ったポワロが正義を貫くかどうかと苦悩する側面に焦点が当てられていました。
という後の今回、うーむ、どうも中途半端な印象は免れない。
ケネス・ブラナー演じるポワロは、これまでのポワロ像(ピーター・ユスティノフも含めて)と大きく異なり、スタイリッシュという雰囲気。
つまり、名探偵というよりも「大人のヒーロー」を目指した感が強い。
なので、停車しているとはいえ列車の屋根に登ったり、高架橋の橋桁での追いかけっこをやったりと、これまで以上にアクティブ。
こういうポワロがみたかった・・・という想いは全然ない。
また、ミステリー的にみると、事件が前後に張られた伏線・ミスリードがあっさりと判明して、肩透かし気味。
ミステリー要素も食い足りない。
ま、どうも映画の狙いはそこいらあたりにはなかったよう。
見どころのひとつは、65ミリフィルムで撮影されたという映像(エンドクレジットでみる限り、撮影後、編集前にデジタルスキャンされたもよう)。
雪深い風景での深みのある映像には満足。
もうひとつは、過去に起こった事件の被害者たちと遺された者たちの深い悲しみに焦点を当てること。
最後の晩餐のように長いテーブルの向こう側に並んで座った容疑者たちを前にしての謎解きシーンでの、殊更までにセンチメンタルな音楽がその証左。
こういう演出は、感情に流されるばかりで、個人的には好みではありません。
スーシェ版では、ここシーンでは、ポワロが手にしている十字架を効果的に用いて、正義を通すかどうかの苦悩、そして、そもそも正義とは何かを苦悩するポワロが描かれていましたので。
さらに付け加えるならば、豪華な俳優陣、上手く活かされていたかしらん。
というか、豪華さからいうと、やはり1974年版の方が上のような・・・