「万能蘇生ジェルはご都合主義の象徴」キングスマン ゴールデン・サークル 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
万能蘇生ジェルはご都合主義の象徴
前作『キングスマン』の続編であり、マシュー・ヴォーン監督作品としても前作に引き続いての第6作目に当たる。
本国イギリスでの公開が2004年だったにもかかわらず、日本では2006年に公開された『レイヤー・ケーキ』がヴォーンの初監督作品である。
おそらく日本での公開が2年も遅かったのは、本来は同作を劇場公開する予定はなかったのだが、主演俳優のダニエル・クレイグが新ジェームズ・ボンドに起用されたことで『007 カジノ・ロワイヤル』の上映前に慌てて公開しただけだろう。
筆者は地元の映画館で何の気もなく観たのだが、予定調和に落ちない結末とフィルム・ノワール的な世界観、全体的に黄色がかったような映像などが強く記憶に残っている。
それ以降も『スターダスト』や『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』『キングスマン』を映画館で観ている。
『スターダスト』はファンタジーものだったと思うが全く記憶にないので面白くなかったのだろうと思う。
『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』は筆者の中ではシリーズの1作品という位置付けである。
しかしヴォーンの監督作品の中で最もキレのある作品はダントツに『キック・アス』である。
同作で放送禁止用語を連発する卓越した殺人技術を持つ少女ヒット・ガールを演じたことでクロエ・グレース・モレッツはブレークした。
『キック・アス』も本シリーズ同様原作はコミックであり、アクションが見せ場の作品である。
ただ戦闘においては『キック・アス』の方が実戦に近く、本シリーズのような荒唐無稽な派手さはない。
前作ではコリン・ファース演じるハリーが死んだことの衝撃が強すぎて他はうろ覚えである。
本作を観るまで予告で前作で撃たれたちょうど左目に眼帯をしたハリーらしきキャラクターが登場するのはわかっていた。
サイボーグで復活するのかと思っていたのだが、まさか生身で復活するとは!
いやあ、どう考えても完全に死んだでしょ、あれは!
なんですか?あのご都合主義な科学を一切無視した万能蘇生ジェルは?
それにいくら狂わされていたとはいえ前作の教会で民間人を大量虐殺、1人残らず殲滅したハリーはキングスマンとして許されるのだろうか?
一般市民を殺したことである意味道徳的にはサミュエル・L・ジャクソン扮する敵ボスのヴァレンタインの同類となったハリーは殺されたことでむしろ救われたのだと筆者には納得のいく展開であったのだが、復活するなら罪はチャラなのか?
本作に限ってもマーリンが数名の敵兵士を道連れに死ぬ必要性はあったのだろうか?
エグジーとハリーは恐ろしいほど無敵である。
さらに傘ガードの下のがら空きな足下を撃たないほど敵は間抜けである。マーリンの死がますます無駄死にに思えてしまう。
麻薬患者に恋人を殺害されたウィスキーはたしかに麻薬患者を一掃するために仲間でありながらエグジーらの邪魔をするが、最後にミンチにされてしまうほど悪人だっただろうか?
冒頭でキングスマンの拠点を全て破壊する兵器を持つほど強大な敵の割にいざ戦ってみるとあっさり全滅してしまうのも含めて、派手さを追及し過ぎるあまりそれに合わせて内容やお話が都合良くコロコロと変えられているようにも思えてしまう。
また特別エルトン・ジョンのファンでもないので、正直彼の存在は邪魔で仕方なかった。
現在麻薬が合法化される地域が世界中で増えている。
日本では戦前は皇室行事に大麻が用いられていたり、神社の鈴縄が大麻の麻紐で結われていたりしたため大麻栽培は盛んであった。
吸う目的で栽培していなかったにもかかわらず皇室の貶めと日本文化破壊政策の一環としてGHQに禁止され、今も麻薬取り締まりの壁があって復活していない。
本作のスウェーデンの王女やアメリカの女性大統領補佐官が麻薬を吸っている設定は若干スウェーデン王室とアメリカ政府を馬鹿にしているようにも思えるが、それほど誰もが麻薬を吸っている時代だと言いたいのだろう。
昔「覚醒剤やめますか?それとも人間やめますか?」という耳に残る惹句があったが、合法化の下ではまさに麻薬使用者が死期を早めようがそれは個人の自己責任になる。
本作ほど麻薬使用者を肯定的に描いた作品も珍しいので、あるいはヴォーンもかつては常用していたのだろうか?
内容はともかく何と言ってもアクションが本作の肝である。
冒頭のCGばかりに頼らないカーアクションも見応えがある。
本作では麻薬接種で倒れたまま活躍の機会がなかっチャニング・テイタム扮するテキーラが最後にロンドンで英国紳士の格好をしていたので、第3作の振りとしては申し分ない。
監督のヴォーンも制作意欲が旺盛のようなので、近いうちに3作目が観られるかもしれない。