探偵はBARにいる3 : インタビュー
大泉洋&松田龍平が「探偵はBARにいる3」で貫いた“面白いには勝てない”
これほどまでに業界内外の垣根を越えて人気を博すシリーズものの存在を、筆者は知らない。北海道在住の作家・東直己氏のデビュー作「探偵はBARにいる」から構成される「ススキノ探偵シリーズ」にあって、小説2作目「バーにかかってきた電話」が初めて映画化されてから6年が経過。2013年の「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」を間に挟み、満を持しての第3弾が全国で封切られる。探偵、相棒・高田として作品世界を行き続けてきた大泉洋、松田龍平に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
前作から4年、メガホンをとっていた橋本一監督から吉田照幸監督へとバトンタッチは行われたが、「より良いものを」という一意専心に揺らぎはなく、製作サイドはおろかキャスト陣にも気持ちが切れることは一切なかったという。大泉は、「早く撮らないと…という気持ちはありました。このシリーズはファンの方が多くてですね、北海道にいると『探偵はやらないのか?』みたいに声をかけられる。業界にも愛してくれているファンがいて、同じようなことを言って頂けるんです。やらなきゃ、やらなきゃと思いながら、実は2年前に撮影する予定だったんです。でも、その時は僕がもう少し台本を練りたいと思ったんです」と振り返る。
「この本だとちょっと弱いなと感じた部分があって、そうこうするうちにプロデューサーも忙しくて、連続ドラマに入っちゃった。とはいえ、それでヒロインを決めて、半年後のインまでに本を直すという手段もあったかもしれません。ただ、『探偵3』は大事にいきたかった。見切り発車が、僕には怖かった。もう少し磐石の状態で撮影できるまで待ちませんか、と。そうなると、僕と松田君のスケジュールが合うのは2年先だったんですね。4年空いちゃいましたけど、出来る限り早く撮りたいなという思いはありましたよ」
万難を排して出来上がった完成稿は、原作のエッセンスを結集したオリジナルストーリーで、北川景子をヒロインに迎えたハードボイルド劇だ。探偵と高田が売春組織から失踪した女子大生(前田敦子)について調べる過程で、モデル事務所の美人オーナー・マリ(北川)と出会う。そこへ冷酷非道な裏社会の住人・北城(リリー・フランキー)が立ちはだかり、大事件へと巻き込まれていく。
クランクイン前の2月1日、都内で行われた製作発表会見の席で、松田は脚本を未読と明かし「まだ読んでいないんですよね。ドラマ(『カルテット』)が忙しかったから。自分のシーンだけは読みましたけど」と意味ありげな笑みを浮かべていた。
その際、「読んでないのかよ! バイオリンの台本ばっかり読んでいる場合じゃないんだよ、君!」と激高するフリをして場内を盛り上げた大泉だが、撮り終えた現在となっては「いや、そうは言っても読んでいたと思いますよ。面白おかしく言ったんだと思います」と穏やかなトーン。筆者も「記者が見出しをつけやすいように、きっとリップサービスしてくれたんでしょうね」と合いの手を打つと、大泉は「そうです、そうです。絶妙に話題を作ってくれる人なんです。うん、うん」と満足げな面持ちを浮かべた。しかし、一方の松田は「ドラマをやりながらだったから、実際に大変でしたよ。台本もあのとき言いましたけど、確かに、ちょっとしか読んでいなかったんですよ」と吐露し、大泉と筆者を唖然とさせるひと幕もあった。
それでも、探偵とのくだりだけでなく、これまで向かうところ敵なしだった高田が、完膚なきまで叩きのめされるシーンなど、見せ場はたっぷりある。前2作とはアクションシーンの撮り方にも変化があったようだ。
「自分もゆっくりやりながら当てにいくんです。それをハイスピードで撮るっていう趣向。だから、当たったときの振動がハイスピードになっているんです。あれは面白いことを考えたなあと思いましたね。撮影は大変でしたけど。(最強の敵役)志尊淳くんのシーンもきつかった。練習する時間があったのは良かったのですが、やられる側が上手いと格好よく見えるんですよね。ただ僕ら2人は素人というか、派手さを求めるところと、実際にぶつけないようにやるというテクニックが足りていないんで、そこは難儀しました」
また、同シリーズのお馴染みになりつつある、桐原組若頭・相田(松重豊)による理不尽な拷問も更にエスカレートし、今回は雪が舞うなか、パンツ一丁で漁船に縛りつけ、沖へ……。「なんだか知りませんけど、僕がやられるシーンっていうのを皆さん、楽しみしていらっしゃる。必ず入ってきちゃうんですけどね」。前作では、大倉山でジャンプスキーに挑戦させられるという無理難題を強いられている。
大泉「スキーのところは、準備稿にあったのに途中でなくなってしまって。『あれ? なんでなくなっちゃったの? あれやっぱ面白いじゃない』って。結局、面白いことに勝てないのね。役者として、どんなに大変であろうと、面白いには勝てない。面白いアイデアなんて、考えるの大変じゃないですか。せっかく目の前に、面白いものがあるんだから、大変でもやるしかない。今回のパンツにしたって、話の流れでいったら『服を着ていても良かったんじゃないの?』って言ったんです。ところが監督が『それはそうなんだけど、ガウンにパンツ一丁の方が画的に面白い』と。それまではストーリーの流ればっかり考えていたけど、はたと気付いた。ガウンの方が面白いんですよねえ~ってしみじみ言われちゃって、『そういうことか』と。話の流れでガウンっていうのもおかしいから、ガウンも脱がされてパンツ一丁になっちゃったんですよ」
松田「パンツ一丁以外、ありえないですよね」
大泉「うるさいってんだよ、黙ってなさいよ」
松田「服なんて着てたら……」
大泉「うるさいっての。彼はね、やらないから好き勝手に言えますよ」
松田「いやあ、最高に面白かったですよ」
この丁々発止のやり取りが、原作の世界からそのまま飛び出てきたように錯覚するほどに、2人の世界観はしっくりきている。さらに、今回のインタビューで盛り上がったのは、探偵が割とあっさり依頼人と一線を越えてしまったという描写について。
大泉「そうそう、それも見どころのひとつですよ。探偵、あっさりと越えちゃいましたね」
松田「それが悔しいですよね。どうせ越えるんだったら、もっと濃厚な越え方をしてほしかったんですよね、個人的には」
大泉「でもね、探偵シリーズのファンだっていう女性の記者さんがインタビューしてくれたんだけど、『私は越えていないと思う。探偵はそんな人じゃない』って。そう言われてみれば、越えていないようにも思えてくる」
いやいや、筆者も原作を初版刊行時から読み続けてきているが、描写にないだけで依頼人に近しい人物と相当関係を持っているはずである……という持論を展開してみせた。
大泉「やっぱり、僕もそう。そう思うんですよ。今までにも探偵はこういう事をしてきたんじゃないかと思うんですよ。ただまあ、そこはもう、見た方に委ねるっていうんで良いんじゃないですかね。あっさりと依頼人と関係を持つ人なんだという、魅力が加わったという見方もできますし(笑)」
今作は、原作のさまざまな要素を抽出して脚本に盛り込んでいったが、原作では初老期の探偵が活躍する魅力的なストーリーも複数ある。よりハードボイルド色が濃くなる一方、探偵の容姿は太って薄汚れていく。今後そういった探偵の姿を見たいと願っているファンも多くいるはずだ。
大泉「探偵が太って薄汚くなっていくというのは、正直ハードルが高いですねえ。この年で太っていくと体に悪いので、出来ない役作りだと思うんですよ。痩せてくださいっていう方がまだできますよ。太るって、年を取ってからやると膝を壊すし、体が絶対におかしなことになるでしょう? デ・ニーロアプローチとか言っていますけど、難しいですよ。見た目が太ることはなくとも、今後も僕はずっとやり続けていきたいし、今回もたくさんの方々に見ていただかないと。確実に年を取っていきますから。昔の寅さんのように、毎年撮るわけにはいかないんですから」
松田「毎年、いきましょうよ。大泉さんが50歳になるまでにあと6年。6本撮れますよ」
大泉「いやいや、寅さんみたいな作風だったらいいけどね、毎年毎年、パンツ一丁で船にくくりつけられるなんて無茶だし、ごめんですよ。2年に1本くらいだったらいいかなあ」
報道向けの試写会鑑賞後、「これまでで最も良かった」と評するジャーナリストの数が多いことは紛れもない事実。だがそれ以上に、こういった大人の鑑賞に耐え得る珠玉のエンタテインメントの製作に執念を燃やす大泉&松田の姿を、目に焼き付けたい。