「理不尽な悲劇に立向うアメリカの強さ」パトリオット・デイ みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
理不尽な悲劇に立向うアメリカの強さ
本作は、2013年に起きたボストンマラソン爆弾テロ事件の全貌をドキュメンタリー仕立てで描いた社会派ドラマである。脇目を振らず、只管、事件発生から事件解決までにフォーカスすることで、シンプルではあるが、作品全体が引き締まって迫力ある見応え十分な作品になっている。
主人公は、ボストン警察の警察官トミー(マーク・ウォールバーグ)。彼は、ボストンマラソンで群衆の多いゴール付近の警備を担当するが、突然、数か所で爆発が起き、華やかな祭典は、一転して多くの死傷者が横たわる地獄と化す。FBIは事件をテロと断定する。主人公達はFBIとの確執に苦悩しながらも、仲間達と協力して、執念の捜査で犯人を追い詰めていく・・・。
冒頭、事件のカウントダウンになっている時刻表示とともに、事件に遭遇する人々の細やかな日常が丁寧に描かれるので、テロ発生時の目を覆いたくなるような惨状が際立っている。市井の人々が突然の悲劇に見舞われる描写は、臨場感が半端なく、彼らの理不尽で残酷な運命に涙が溢れてくる。
本作は事件を早期解決した捜査本部の活躍を美化せず、FBIとボストン警察の確執を生々しく描いている。リアリティに徹している。事件解決よりも自分たちの立場、面子を優先するFBI特別捜査官(ケビン・ベーコン)、ボストン市民に寄り添い泥臭く捜査をしていくボストン警察。両者の違いは、警視庁と所轄の確執を描いた“踊る大捜査線シリーズ”を彷彿とさせる。
本作では、ボストンを守るという表現が頻繁に使われる。ボストンへの愛が強調されている。ボストンは、アメリカ建国の地であり、フロンティア精神の起点である。本作を観て、そのフロンティア精神が脈々と受け継がれていると感じた。アメリカの強さを感じた。
事件解決のための主人公達の命懸けの行動、事件解決後にレッドソックスの選手が叫ぶ台詞、エンディングでの実際に被害に遭った人々のその後の再生描写から、本作のメッセージは明確である。“生きる自由、権利は与えられるものではなく、強く守り抜くもの。そして、どんな理不尽な運命に遭っても、それでもなお人は強く生きていける”である。
本作は不条理な悲劇を描いているが、力強いメッセージで、我々に生きる勇気を与えてくれる作品である。